
人口減少や投資アパートのストック数増加などによって、不動産投資の環境が厳しくなっている時代。「アパート経営をやめたい」と悩む大家さんも増えていることでしょう。ただ「やめたい」といっても理由や背景はさまざま。ここではどんなパターンがあるのか、それぞれの注意点などをクローズアップします。
あなたはどれ?「アパート経営をやめたい」3つのパターン
「アパート経営をやめたい」と一口にいっても、次に挙げる3つのパターンがあります。まずは、ご自身がどのパターンにあてはまるかを把握することが大切です。これにより、進むべき方向性が整理しやすくなります。
1:売却した方がいいパターン
不動産売却した方がいいパターンの代表は、人口減少が進む地方や郊外のアパートです。とくに、周囲に空室だらけのアパートが目立ち、家賃を下げても長期空室が解消できない場合は、今後さらに経営環境が悪化する可能性があるため、なるべく早い段階での収益物件の売却をおすすめします。
なかには、融資を受けていてローン残債があるため売却に踏み切れないオーナーもいるかもしれません。しかし、月々のキャッシュフローが赤字の場合は速やかに損切りを行い、損失や固定資産税による流出を最小限におさえるのが賢い選択です。
2:廃業した方がいいパターン
後継者が不在でオーナーがご高齢のような状況がこのパターンの典型です。アパートの築年数が比較的新しければ売却の選択もありますが、築40〜50年以上で傷みが激しい賃貸物件の場合、解体した上での廃業も視野に入れるべきでしょう。
たとえ子がいても、ご本人にアパート経営をする気がないのであれば、廃業または売却をオーナーが元気なうちに選択してあげるべきです。
3:管理会社を変えた方がいいパターン
入居者ニーズがある立地にもかかわらず利回りが悪いケースは、管理会社を変えることで状況が好転する可能性もあります。競合物件は空室率が低いのに、ご自身が所有しているアパートの稼働状況が悪い場合は、管理会社を変えてみるのも手です。
他の管理会社に変えた方がいいパターンは、高コスト体質になっておりキャッシュフローが悪い場合です。委託管理の金額が高かったり、清掃や点検の費用が高かったりするときは他の事業者との比較検討も必要です。
「売却や廃業する」を選んだときの注意点
上記3つのパターンのうち、「売却や廃業を選択する」ときの注意点は下記の通りです。
注意点1:不動産の処分方法をしっかり考える
所有されている不動産投資物件の処分方法には、次のA〜Cがあります。
処分方法A:建物を残して売る
建物を残して売る処分方法のメリットは、アパートの解体費用がかからないことです。建物が比較的新しい場合(築30年以下など)は、まずこの選択を検討するケースが多いのではないでしょうか。これに対し築古アパートの場合(築40〜50年以上など)、不動産市場に出しても建物の存在が足かせとなって敬遠される可能性もあります。
処分方法B:更地にしてそのまま売る
一般的に、築古の建物が残っている土地よりも、更地の方が処分しやすいといわれます。理由は建物を解体する手間と費用がかかるからです。解体費用はエリアや建物構造などによって異なりますが、「坪あたり2万〜3万円程度」からが相場です。
処分方法C:更地にして付加価値を付けて売る
アパートのニーズはなくても、他の用途であればニーズのある立地向きの処分方法です。一例では、周囲の賃貸物件の月極駐車場にする、大型施設の立体駐車場にする、コインパーキングにする、アパートではなく戸建てや賃貸マンションの賃貸住宅として土地活用するなどが考えられます。
メリットは、更地のまま売るよりも付加価値がある分、高値で取引できる可能性があることです。注意点は、契約者や入居者をつけた上で物件売却しないと付加価値にならないので手間がかかること、用途転換にかかった資金を回収できないリスクがあることです。
注意点2:入居者をどうするか考える
現在所有しているアパートに入居者がいる場合は、トラブルにならないよう慎重に考える必要があります。具体的には、「入居者ごと売却する」「入居者に立ち退いてもらう」という2つの選択肢があります。
選択A:入居者ごと売却する
入居者がいるという付加価値がある分、通常の不動産評価額よりも高い価格で売却できる可能性があります。ただこれは、満室に近いアパートの場合に限ります。空室率が極端に高い(例:半分以下しか埋まっていないなど)場合、空室を埋めるのに手間がかかるため、マイナス材料と判断されるのが一般的です。
こういった空室だらけの物件を売却する場合、空室を埋めてから市場に出す、あるいは割安な価格で市場に出すなど、いずれかの選択になります。
選択B:立ち退いてもらう
稼働率が極端に低いアパートの場合、入居者に立ち退いてもらってから売却すると買い手がつきやすく価格も期待できます。とはいえ、日本では入居者(賃借人)は法律で守られているため、立ち退き交渉はそう簡単ではありません。入居者が条件に納得した場合のみ、立ち退いてもらうことができます。
立ち退き期間や立ち退き料に関しては、入居者との個別交渉になります。そのため、賃料1年分の立ち退き料を積んでも条件がまとまらないこともあります。交渉が難しいと予想される場合は、立ち退き案件で実績のある弁護士などに相談するなど、慎重に進めるのが無難です。
注意点3:所有期間を確認する
所有するアパートや土地を購入価格よりも高い価格で売却できるときは、譲渡所得税という税金がかかります。譲渡所得税の税率は所有期間で変わってくるため、所有期間を確認してから売却手続きをとるのがおすすめです。例えば、来年になれば譲渡所得税が下がるというケースでは、少し経って売却するのが賢い判断です。
長期譲渡所得税 | 短期譲渡所得税 | |
所得税の税率 | 15%(住民税5%) | 30%(住民税9%) |
所有期間 | その年の1月1日現在で所有期間が5年超 | その年の1月1日現在で所有期間が5年以下 |
「管理会社を変える」を選んだときの注意点
冒頭で紹介したアパート経営をやめたい3つのパターンのうち、「管理会社を変える」を選んだときの注意点は次の通りです。
注意点1:現在の管理会社とよく話し合う
管理会社や担当者に不満がある場合でも、予告なく管理会社を変更するのは避けた方がよいでしょう。険悪な雰囲気になれば、契約終了までの間、賃貸管理で不都合が出てくる可能性もあります。
営業力がない、空室率が高いなどの不満があるのであれば、まずはそれを担当者や管理会社に伝えて改善の努力をしてもらうのが先決です。それでも改善が見られないときは、業者を変更する手続きをとるのが大人の対応でしょう。
注意点2:契約書をしっかり確認する
委託している管理会社に改善の努力を求めても成果が見られない場合は、新しい管理会社への切り替えを進めるのが賢明です。ただし、切り出す前に管理会社と結んだ契約書をチェックするのが先決です。
チェックポイントは、不動産投資家側にとって不都合な内容がないか、どれくらい前に契約解除を伝える必要があるのかの2点です。一般的に、不動産オーナー側から契約解除を申し出る際は3カ月前予告になっているケースが多いでしょう。
注意点3:変更前に次の管理会社を見つける
管理会社を変えるときは、「現在の管理会社と次の管理会社の空白期間」を空けないようにすることが重要です。ポイントは、新しい管理会社を決めた後で契約解除を申し出ること。
新しい管理会社の見つけ方としては、知人に紹介してもらう、対象エリアに強い管理会社を探すなどが考えられます。委託管理料の安さだけでなく、実績や管理サービスの充実などを総合的に判断した上で選んだ方がよいでしょう。
優秀な管理会社に委託すると、アパート経営はこう変る
この項目では、管理会社を変えたことでアパート経営にどのような効果が出るかを紹介します。
効果1:空室率が低下する
優秀な管理会社に委託すると空室率が低下する理由は、営業力が違うからです。能力のない管理会社は集客力のない不動産会社に機械的に情報を流したり、レインズに情報をアップしたりするくらいで放置してしまいがちです。
これに対して優秀な管理会社は、駅前の一等地に店舗を持っているような集客力のある仲介会社へ入居者付けを依頼。それでも、決まらない場合は費用対効果の高い不動産総合メディアへの出稿をスピーディに提案してくれるなどしっかりフォローしてくれます。
効果2:空室期間が変わる
管理会社を変えることで、退去から入居までのサイクルが短縮され、空室期間が大きく変わるケースも多いです。能力のない管理会社は退去の直前または退去後にならないと、入居者募集の準備を始めないからです。
優秀な管理会社は、退去を把握した直後から入居者募集の準備に着手してくれます。これにより、現在の入居者が退去する前に新しい入居者がほぼ確定したり、退去になった直後に内覧を行えたりします。
仮に、家賃収入8万円の部屋で1.5カ月の空室期間があったら、本来得られたはずの逸失利益は12万円(8万円+4万円)です。所有する部屋数が多いほど能力のない管理会社に任せると逸失利益が膨らんでいきます。
効果3:入居者の質が変わる
空室期間が長引いている不動産物件は、入居者を決めやすくするために入居審査のハードルを下げることがあります。これにより、不安定な仕事をしている人が多くなるなどの事情で、短期の入居者が増えることも考えられます。
優秀な管理会社は、強力な営業力によって十分な数の内見申し込みを獲得できるため、審査のハードルを落とさなくても済むことが多いです。これにより、サラリーマンや公務員など属性の高い入居者が決まりやすくなります。
補足:管理会社を変えても効果がないパターンも
管理会社を変更したいと考える時は、アパートに潜在価値があるにもかかわらず、管理会社の能力の無さや怠慢(たいまん)によって経営効率が落ちている場合です。
端的にいえば、入居ニーズのない立地、賃貸物件としての価値のないアパートはいくら優秀な管理会社が担当しても状況がほとんど変わりません。トップレーサーがハンドルを握ってもポンコツ車では勝てないのと同じです。
ただ賃貸物件に潜在能力があるのであれば、管理会社を変えることでこの項で紹介したような効果が出ます。
管理会社に契約解除を連絡する方法
最終的に「管理会社を変えた方がよい」と判断した場合、契約解除の通達には2つの方法があります。ひとつ目はオーナーが自分で管理会社へ伝える方法です。対面の他、メールまたは電話などで伝えてもよいです。2つ目は、新しい管理会社から現在の管理会社へ直接連絡してもらう方法です。
残り期間の入居者管理や引き継ぎがあるため、できれば円満な雰囲気で契約を解除するのが理想です。契約解除を決めたあとに不満をぶつけても不毛です。「知り合いにお願いされたから」「管理料を安くしたかったから」など無難な理由を伝えるのも一案です。
まとめ
アパート経営をやめたいオーナーの3つのパターン(売却する、廃業する、管理会社を変える)を紹介してきました。
「アパート経営をやめたい」と嘆くだけで行動しないと、家族の重荷になるマイナス資産になったり、損失が膨らみ続けたりします。アパート投資は相続税対策になりますが、損失を生むだけでは投資用物件の価値がありません。現実を変えるには、オーナーが具体的な行動を起こすしかありません。行動を起こし少しずつ現実を動かしてみましょう。