
不動産経営で成功するための大きなカギを握るのが管理会社です。
管理会社の良し悪しが収益に大きく影響するだけに、万が一管理会社がイマイチと感じた場合、思い切って変更することが重要な経営判断となります。
しかし、相手は経験豊富なプロ集団。多額の損害賠償など請求されては…と尻込みする方も多いのが現実です。
ここでは、賃貸管理会社の契約解除の法的解説とチェックポイントなどを解説します。
管理委託契約の法的原則と仕組み
まず、管理委託契約についての法的な考え方について簡単に見ていきましょう。
法的には大家さんの意向で管理会社を変更できる
結論から言えば、管理委託契約の途中であっても大家さんの意向で管理会社を変更することは、法律上、問題はありません。
賃貸管理を管理会社に委託する場合には管理委託契約書を結びます。従って契約解除する場合も、この契約書にのっとって手続きする事が原則です。
その場合、契約書に中途解約に関する記述がある場合とない場合があります。
契約期間内の中途解約記載がある場合
一般的には「中途解約をする場合には〇カ月前に相手方に通知しなければならない」といった記述が契約書に盛り込まれるのが普通です。
この場合、「〇カ月前」に通知さえすれば、契約解除できることになります。
契約期間内の中途解約記載がない場合
では、契約書に中途解約の記述が一切ない場合はどうなるのでしょう。
この場合も、大家さんの意向ひとつで、いつでも解約可能です。
そもそも、管理委託契約というのは、民法の定める13種類の契約の中の「委任契約」に当たります。
委任契約は、民法第651条第1項で「委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる」 と定められているのです。
つまり、法律に従って、契約書に中途解約の定めが何も書いていなかったとしても、大家さんが望めばいつでも契約を解除することができます。
この場合、解約の理由も法的には必要ありません。「替えたいから替える」で良いのです。
損害賠償請求すると言われたら
しかし、なかには「管理委託契約の中途解約で生じた損害に対し、損害賠償を請求する」といった対抗措置を取ってくる管理会社もないとは言えません。
この場合も、法律が守ってくれます。民法第651条第1項に基づいて解約した場合には、原則として損害賠償義務は発生しないのが法的な建て前となっています。
ただし、同じく民法第651条第2項では「不利な時期に委任の解除をした場合は相手の損害を賠償しなければならない」という定めもあります。
その場合でも、次の管理会社に引き継ぐまでの管理委託料程度。契約期間内に受け取るはずだった管理委託料相当額を賠償させられるようなことはありません。
裁判を起こしても管理会社に勝ち目はないので、そんな無理筋の裁判を起こされる心配はないのです。
法を熟知している管理会社としては、損害賠償請求をちらつかせることで大家さんがびっくりし、解約を引っ込めてくれたらラッキーぐらいの思惑で言っているにすぎません。
むしろ、大家さんを法律の素人と見下し、このような「脅し」を仕掛けてくるような管理会社なら、1日も早く契約を打ち切ったほうが賢明でしょう。
契約書に中途解約の記述がないのも、いざとなったら脅して解約を阻止するための確信的行為なのかも知れないからです。
このような経営方針の管理会社が大家さんのために真剣に汗をかいてくれるはずはありません。
たとえ担当者がどんなに良い人だったとしても、社の方針には逆らえないものです。ためらわず解約を決断すべきです。
どうしても不安な場合は弁護士に相談すると良いでしょう。全国各地の「法テラス」に問い合わせれば、無料もしくは格安で相談に乗ってくれます。
管理会社を変更する方法
では、実際に管理会社を変更する場合の方法と基礎的な知識を学んで行きましょう。
契約解除の3つの方法
契約解除には3つの方法があります。順に概要を解説します。
合意解除
合意解除というのは、大家さん・管理会社双方が合意して契約を解除すること。
火事などによる建物の滅失、契約期間終了時に合わせた契約解除の合意などが挙げられます。
このような特別な事情がない限り、大家さんと管理会社が「同時」に契約解除を思い立つことはまずないので、合意解除というケースは滅多にないのが現実です。
約定解除
約定解除とは契約書に取り決めのある方法にのっとって解約することです。
つまり契約書に「中途解約の場合は、〇カ月前に相手方に通知しなければならない」という取り決めがあるのなら、「〇カ月前」に通知して解約するというものです。
この場合、管理会社の合意は必要なく、大家さんの意思表示だけで成立します。
また、中途解除の取り決めがない場合は、民法第651条1項に基づいて契約解除を申し入れることができ、この場合も約定解除となるのです。
法定解除
これは管理会社からの賃料の振り込みがないなど、重大な契約違反が生じた場合に可能な解除方法です。
ただし、「賃貸住宅標準管理委託契約書」には、法定解除には、「契約に定める義務の履行を相当の期間を定めて催促する」とあるため、実際はこちらも殆ど使われません。
このように、現実に契約解除手続きを進める場合は、約定解除で進めるのが一般的です。
契約解除のステップ
次に契約解除する場合のステップをまとめてみました。
管理委託契約書の確認
まず、現管理会社と交わした管理委託契約書を確認します。
いつまでに通知しなければならないか、契約解除料は発生するかなどのポイントを頭に入れることがスタートです。
新管理会社探しと打診
次に新しい管理会社探しです。地域に根を下ろし、地道な管理業務を続けている管理会社を“複数社”リストアップします。
地域の同業他社の評判を確かめる意味でも、1社決め打ちは避けましょう。
リストアップした管理会社に、まずは電話またはメールで所有する物件の概要を伝え、条件が合えば管理委託が可能かどうかの打診を行いましょう。
協力が得られるという管理会社に対しては現地まで足を運び、面談と管理物件の見学、管理サービスの仕組みなどをヒアリングして行きます。
この時、他の候補管理会社についての評判も聞くようにします。評判の良くない管理会社はもちろん、同業他社の悪口ばかり言う会社も避けるべきです。
管理委託料が安い事よりも、誠実さが感じられる社風か、管理サービス内容が充実しているか、管理戸数が多すぎないかなども大切なチェックポイントです。
現管理会社への通知
新しい管理会社の目途が立ったら、現管理会社への解約通知を行います。
いきなり文書を送りつけるのは余計な摩擦を生む可能性もあるので、まずは電話かメールでソフトに通知してから文書を送るようにしましょう。
もっとも、現管理会社にとって解約の意思を示されることは気分の良いものではなく、収益にもマイナスなので大なり小なり摩擦が生じることへの覚悟が必要です。
新管理会社と委託契約締結
現在の管理会社に通知した解約日の翌日を開始日とした管理委託契約を新しい管理会社と結びます。
賃貸管理は24時間何があるかわからないため、1秒たりとも管理の空白を生じさせないことが重要です。
管理移管・入居者への通知
物件の管理業務に必要な賃貸借契約書や、物件に関する書類、鍵などの引き継ぎを、新旧管理会社間で行ってもらいます。
最後に引き継ぎが完了したことを証明する書面を作成してもらって、移管完了です。
その後、新しい管理会社は入居者に管理会社の変更を通知します。
必要に応じて家賃の支払い口座の変更や新しい問い合わせ先などを手紙や訪問などでお知らせするなど、実質的な管理業務がスタートすることになります。
ちなみに、管理移管手数料は一般的に10万円程度です。
契約解除時のチェックポイント
このように、新しい管理会社を決めてしまえば大家さんの仕事はあまりありません。ただし、大家さんとしてチェックしておくべきポイントもあるので、順に見て行きましょう。
家賃保証会社の確認
家賃の滞納などを防ぐ意味で、保証人を立ててもらうのが一般的ですが、保証人を立てるのが難しい場合は家賃保証会社との契約を付けるケースも増えています。
この場合、新管理会社が契約保証会社の代理店登録をしていないと契約を引き継げない場合もあるので、注意が必要です。
大家さんは管理会社を変更しても家賃保証契約を引き継げるのか、新管理会社に対し事前に確認しておく必要があります。
もしも新管理会社が代理店登録をしていないなら登録してもらうか、新たに加入してもらうための費用を一部負担してもらえないか相談してみましょう。
新管理会社が契約を引き継げないからといって、入居者に改めて家賃保証契約を結んでもらうのは筋違いなのは言うまでもありません。
進捗状況の確認
現管理会社から新管理会社への管理移管は基本的に両者間で行われます。
しかし、現管理会社にとっては何ら利益を生まないばかりか屈辱的な業務であり、ライバルのために手間や時間を積極的に使う気にはなれないはず。
実際、管理移管段階でごねたり、嫌がらせをしたりして業務を邪魔するような管理会社も残念ながら存在します。
管理移管がスムーズに進まないことは、大家さんにも跳ね返ってくるため混乱を最小限に抑えるために大家さんが間に立つようにしましょう。
進捗状況をこまめに確認し、問題が生じた場合は、大家さんが引き取ってもう一方に依頼するといったクッション役になることも大切です。
契約解除を打診するだけでも意味がある場合も
このように実際に管理会社を変更するには大変な手間と気遣いが求められるもの。
しかし、筆者の場合は管理会社変更を「打診」しただけで現管理会社が担当者を交代し、対応が改善した経験があるので紹介しましょう。
筆者は、ある地方都市で学生向けのアパート経営を行っています。
初めは満室が続いていたのですが、10年ほど前に急に空室が発生するようになったのです。
最悪の時は8戸中3戸が空室。学生向けなので2月、3月の時期を逃すと1年間空室が続くことになります。
理由は担当者のやる気のなさです。他の部署から異動になった60代ぐらいの男性で、とにかくやる気がない。改善を求めても
「そういわれても、大学生協が紹介してくれなかったのでねぇ」
「近くに新築アパートが随分建ったしぃ」
と木で鼻を括ったような回答。
業を煮やした筆者は、地元で実績のある別の管理会社に打診してみることにしました。
すると、狭い業界なので、その情報が現管理会社に瞬時に伝わり、すぐに担当者が替わったのです。
新たな担当者は「ゼロゼロキャンペーン」(敷金・礼金ゼロ)や「フリーレント」(一定期間家賃無料)などの案を持ってやってきました。
早速実行してもらうと、学生以外の入居者が次々決まって行ったのです。
このように、管理会社の変更も辞さないという態度を示すことは管理会社に対してのショック療法となり、優先的に対応してもらえる場合もあります。
管理会社の怠慢ではなく、単に一担当の怠慢の場合は、これだけで解決する場合もあるということです。
おとなしい大家さんではなく、時には物言う大家さんを演じることも大切な心構えと言えるでしょう。
サブリース契約には要注意
ここまでは一般的な管理契約解除についての解説でしたが、注意の必要な契約があります。サブリースです。
サブリースとは
サブリースとは、管理会社がオーナーから賃貸物件を丸ごと借り上げ、入居者に又貸しするサービスです。
管理会社は大家さんに代わって賃貸経営を行い、実際の入居状況に関係なく一定の家賃を保証するのが一般的なサービス形態です(派生形もあります)。
大家さんとしては空室リスクを避けられ、経営の気苦労なく毎月安定した金額を受け取れるのが魅力です。
しかし現実にはトラブルも多く、泣き寝入りしている大家さんも少なくありません。
保証金額は見直される
実際の入居率に関係なく、大家さんには一定の家賃を保証するため、サブリースは「家賃保証システム」とも呼ばれますが、ここに注意点が潜んでいます。
多くの場合、最初に提示された保証金額は数年で見直しされることが契約書の片隅に入っているのです。
「家賃を下げないと空室が埋まらない」
「保証家賃を下げてもらわないとウチも倒産するしかない。そうなると大家さんも大変ですよ」
そんな風に迫られれば、保証金額の引き下げ要求を呑んでしまう大家さんは多いでしょう。
保証金額は満室家賃よりも安い
一般に大家さんに提示される保証金額も、満室時家賃の8掛け程度と言われています。
つまり、初めから2割の空室率を織り込んでいるようなもので、管理会社が空室リスクを負わなくて良い金額設定になっているわけです。
しかも、新築から数年間は新築プレミアム(誰も入居していないという付加価値)が働き、ほぼ満室で推移するので2割の空室を見込む必要はないと言ってもいいでしょう。
それでいて数年後に保証金額が引き下げられるなら、サブリースの家賃保証にあまり魅力がないのが分かります。
もちろん、管理会社も営利が目的である以上、損してまでサブリースを行うはずもありません。
しかし、あたかも何十年にもわたって保証金額が変わらないと誤解させるような表現は問題です。
このため現在ではサブリースの契約時には「重要事項説明」が義務付けられ、保証金額の見直しがあるといった事実はしっかりと説明することが求められるようになっています。
サブリースは解約できる?
さて、もしもサブリース契約を結んでいた場合、解約は可能なのでしょうか?
結論から言えば、不可能ではないが難しいといったところです。
サブリース契約書の中に中途解約を認める記述があれば、それにのっとって解約することができます。
また、国交省が用意したサブリース契約書のひな型には、オーナーは管理会社に対して6カ月前に解約通知を出すことで、サブリースの解約が可能であるという記載があります。
この記載がそのまま使われている場合は解約が可能になる場合もあるでしょう。
しかし、実際には次のような壁が立ちはだかり容易に解約することはできないのが現実です。
正当な理由が必要
「サブリース契約を解約できるのは、正当事由がある場合のみ」というのが原則なのです。
この正当事由は明確に定められているわけではなく、管理会社の裁量で異議を申し立てる可能性が大。
少なくともオーナーの一方的な都合で解約できるものではないと考えておく必要があります。
管理会社は借地借家法で守られている
サブリースというのは管理会社がオーナーから借りているという関係。
つまりこの場合の管理会社は借り手なので、貸主より借り手が保護される「借地借家法」で手厚く守られているのです。
このためか、借地借家法第32条1項では「サブリースの保証金額は物件価値の変化があった場合や、近隣物件と比較して家賃相場が下がる場合に、変更することができる」(※要旨)といった内容も定められています。
つまり、管理会社による保証金額引き下げは、借地借家法でお墨付きをもらっていると言えるのです。
この法律の壁を突き崩すのは、まず難しいでしょう。
違約金の設定
仮に解約の申し出に管理会社が応じたとしても、高額な違約金が行く手を阻んでいるケースがあります。
違約金の金額は管理会社の裁量で決めて良いので、多額の違約金を要求される可能性があるのです。
サブリース契約は慎重に
このように、サブリース契約は一旦結んでしまったら、大家さんの意向で解約するのは、ほぼ絶望的なのが実態です。
サブリースにおける力関係は、管理会社の方が圧倒的に強い事を念頭に、契約の締結には慎重な判断が求められます。
これから不動産投資をする場合の管理会社選びのポイント
最後に、これから不動産投資を始めようという方はどんな点に注意して管理会社選びをしたらよいかを考えてみましょう。
良いパートナー選びが大切
よく「結婚よりも、離婚の方が大変」と言われますが、管理会社選びも全く同じです。
安易に管理会社を決めてしまうと、将来、泥沼の展開が待っているかもしれません。
生涯付き合っていける良いパートナーを選ぶには、やはり最初に相手をしっかりと観察することが基本です。
いくつかポイントを見て行きましょう。
帳票類や契約書をチェック
賃貸管理はノウハウが勝負です。経験と実績が豊富な会社はトラブルが生じた場合の対応策が整備されており、それは帳票類や契約書、文書などに反映されているものです。
管理業務で使用する帳票類や契約書などを見せてもらえば、地に足の着いた実績とノウハウがある会社かどうか判断できるでしょう。
ホームページのチェック
現代では入居希望者はスマホなどから物件検索を行うケースが殆どです。
つまり、ホームページは実際の店舗と同じで、店の前を掃除したり、笑顔で出迎えたりするのと同じようにホームページにも感じの良さが求められます。
若者にアピールするような、センスの良い写真や文章になっているか、新しい情報が反映されているか、スマホ画面に対応しているか、誤字脱字はないかなどをチェックしましょう。
こんな管理会社は避けたい
管理会社で最も大切な業務は入居者付けです。良質な入居者を確保してもらうには、接客する管理会社自体が良質でなければいけません。
例えば、「電話や接客の態度・言葉遣いが乱暴」「髪型や服装が乱れている」「靴や内見用の車、内見用のスリッパが汚れている」といった会社は避けた方が無難です。
今なら「店頭での消毒や飛沫防止対策、内見時の換気」など、コロナ対策が十分に取られていない会社は避けるべきでしょう。
また、賃貸管理の他に幅広く不動産事業を展開しているところも要注意です。
賃貸管理は地味で利益の薄い部署ですので、会社としての優先順位が低く、力を入れていない場合があります。
その場合、スタッフの士気が下がっていることもあるのでホームページで事業内容や沿革を調べ、賃貸管理を大切にしている会社かどうかを判断するようにしましょう。
まとめ
賃貸経営の成否を大きく左右する管理会社は、不満があれば大家さんの意向で切り替えることができます。
損害賠償を請求すると脅されても心配はいりません。法律にのっとって粛々と解約手続きを進めて問題はありません。
ただし、管理会社を変更するには多くの手順とチェックが必要で、現管理会社とのある程度の摩擦は避けられず、肉体的にも精神的にも大きな負担となるでしょう。
特にサブリース契約を結んでいる場合、途中解約はまず難しいのが現実です。
「結婚よりも、離婚の方が大変」なのと同じで、これから不動産投資を始める方は、生涯にわたって付き合うことのできる良質な管理会社を選ぶことが重要です。