賃貸契約の更新時に契約更新を拒否できるのかについて解説!

投稿日2020/11/30
更新日2020/11/30
賃貸契約

賃貸マンション経営や賃貸アパート経営などの賃貸経営を行う場合、物件オーナーは入居者と賃貸借契約を締結します。両者が交わす賃貸契約書には、契約期間が決められています。

契約期間の満了を迎えた場合には、物件オーナーは契約更新または契約更新拒否のいずれかを決める必要がありますが、オーナーの都合で契約更新を拒否できるのでしょうか?

この記事では、賃貸契約の更新時に契約更新を拒否できるのか、拒否する場合の手順について解説します。

賃貸経営で契約更新を拒否することは可能

家賃滞納

賃貸経営を行っている物件オーナーは、入居者と賃貸借契約を締結します。賃貸借契約には、契約期間が定められており、契約期間の満了までに契約の更新または契約の終了のいずれかを決める必要があります。

物件オーナーは契約を更新するつもりでいても、入居者に契約更新日ギリギリに解約する旨を伝えられた場合は、急いで次の入居者を確保しなくてはなりません。

そのため、次の入居者を募集する時間を十分に確保できるように「3カ月前までに解約する旨を通知する」といった解約通知期間が賃貸契約書に定められているのが一般的です。

物件オーナーが入居者に更新しない旨を通知して、入居者がそれに応じた場合は、正当事由が必要ありません。しかし、入居者に要求を拒否された場合は、正当事由が必要になります。

正当事由が認められた場合は更新せずに済みますが、正当事由が認められなかった場合は契約更新となるので注意が必要です。

契約更新拒否の正当事由として認められるパターン

物件オーナーが契約更新を拒否する際に必要となる正当事由は、どんな事由でも良いわけではありません。入居者が住み続ける権利と物件オーナーの利益を比べて、物件オーナーの利益が入居者の住み続ける権利を上回っている場合に正当事由が認められます。

契約更新拒否の正当事由として認められるパターンとして、以下の4つが挙げられます。

  • 賃貸物件の自己使用を予定している
  • 入居者が家賃支払いを滞っている
  • 入居者が近隣住民とトラブルを起こしている
  • 建物の建て直しを予定している

それぞれの正当事由について詳しく見ていきましょう。

賃貸物件の自己使用を予定している

賃貸経営を行っているオーナーが、自身の居住用または自社の従業員の社宅として賃貸物件を使用する予定がある場合は、契約更新拒否の正当事由として認められます。しかし、上記のような事由が必ず正当事由として認められるわけではありません。基本的には入居者の借りる権利が重視されるので注意が必要です。

住む場所が他になく、賃貸経営している物件にどうしても住まなくてはならない、事業内容の関係上、どうしてもその物件でないと支障が生じるなど、特別な事由がない限りは正当事由が認められる可能性は低いと言えるでしょう。

入居者の家賃支払いが滞っている

入居者の家賃支払いが滞っている場合も、契約更新拒否の正当事由が認められます。しかし、滞納期間によって正当事由として認められるかどうかが異なるので注意が必要です。

滞納期間が1~2カ月程度の場合は、入金忘れや一時的な収入減少といった理由で家賃支払いが滞っていると考えられます。このような短期の滞納では、家賃滞納によってオーナーの収入が減少することよりも、入居者の借りる権利が重視される可能性が高いと言えます。

しかし、滞納期間が3カ月を超えた場合は、支払いを継続できる可能性が低いと考えられるので入居者の借りる権利よりもオーナーの利益が優先されるのが一般的です。

滞納を理由に契約更新を拒否しても、すぐに契約が解除されるわけではありません。入居者が同意しなかった場合は、裁判所の判決が出てからの立退きとなる、滞納分の家賃を回収できる可能性が極めて低いという点に注意しましょう。

入居者が近隣住民とトラブルを起こしている

騒音や異臭といった近隣住民とのトラブルを起こしている入居者の契約更新拒否も正当事由が認められます

近隣住民とトラブルを起こす入居者の中には、物件に不満を抱いていて、解約に応じてくれる入居者もいますが、自分に非はないと応じない入居者も多いので注意が必要です。

応じてくれない場合は、近隣住民とのトラブルが原因で実際に退去者が増えたといった被害を証明しなければ正当事由が認めらない可能性もあるため、状況証拠を準備して起きましょう。

建物の建て直しを予定している

物件の建て直しを理由とする契約更新拒否も、正当事由が認められます

築年数の経過した賃貸物件は、経年劣化が進行したり設備が古くなったりします。経年劣化や設備の古さはリフォームやリノベーションで補えますが、柱や屋根などの構造上主要な部分の劣化は建て直しが必要です。

建て直しに同意しない場合は、災害のリスクの高い賃貸物件に入居者が住むことになるため、同意しないという選択肢は入居者にプラスとは言えません。そのため、建て直しを理由とする契約更新拒否は、正当事由が認められる可能性が高いと言えます。

ただし、建て直しをまだ行わなくても問題ないと判断された場合、入居者の住み続ける権利が優先されて、正当事由として認められない可能性もあるので注意しましょう。

更新日までにまとまらなければ法定更新

更新日までに契約更新拒否に対する同意が得られない場合、物件オーナーは解約通知期間内に通知しているため、更新日を迎えるとともに契約は解約されるのでしょうか?入居者の同意を得ることができないまま更新日を迎えると契約が法定更新されます

契約を解除するためには、入居者の同意が得られるまで話し合いを継続する、裁判所に立退き請求する必要があります。

契約は自動的に法定更新されてしまうため、話し合いが長期化する、判決が出るまでに時間を要することを覚悟しておきましょう。

契約の解除にかかるオーナーの労力

契約更新時に契約を更新しない旨を入居者に伝えれば、簡単に契約を解約できると思っていたオーナーも多いかもしれませんが、話し合いが長期化することは珍しくありません。

契約の解除にかかるオーナーの労力として、以下の2つが挙げられます。

  • 入居者との交渉に手間と時間がかかる
  • 解除に応じてもらうために費用がかかる

それぞれのオーナーの労力について詳しく見ていきましょう。

入居者との交渉に手間と時間がかかる

契約更新拒否は入居者に応じてもらえる可能性が低く、交渉に手間と時間がかかるという点に注意が必要です。

物件オーナーにとっては、何らかの目的を達成するために契約更新を拒否するため、契約更新拒否はプラスです。しかし、入居者は現在の住居から出て行かなくてはならないため、新居を探さなくてはならない、引っ越しの手配をしなくてはならないなど手間がかかります。

そのため、契約更新を行わない旨を入居者に伝えても、簡単に同意を得ることはできません。交渉が長引くということを視野に入れておきましょう

解除に応じてもらうために費用がかかる

契約更新の解除には費用がかかりません。しかし、契約更新の解除を有利に進めるためには、ある程度の費用を想定しておく必要があります。

入居者に契約更新を行わない旨に同意してもらうには、入居者から同意を得られやすい環境を整えなくてはなりません。入居者の同意を得ることができない背景には、新居に移転する際の初期投資の負担が大きいという理由が挙げられます。

そのため、それらの費用を物件オーナーが負担すれば、同意を得られる可能性を高めることが可能です。例えば、現在の賃貸住宅と立地条件や間取りが似た物件を提案する、家賃や敷金、礼金、保証金、引っ越し費用などの各種費用を物件オーナーが負担するなどです。

それでも入居者の同意を得られない場合は、弁護士に相談して対応してもらう、または裁判所に強制退去を認めてもらうなどの方法を選びます。このように契約更新を拒否する際は、多くの費用がかかるという点に注意しましょう。

賃貸経営で契約更新を拒否する際の手順

弁護士

賃貸経営で契約更新を拒否する場合に、どのように手続きを進めればいいのか気になっている物件オーナーも多いと思います。賃貸経営で契約更新を拒否する際は、以下の手順で手続きを進めます

  1. 更新拒絶通知を借主に行う
  2. 応じない場合は弁護士に相談する
  3. 応じない場合は裁判所に立退きを請求する

それぞれの手続きについて詳しく見ていきましょう。

①更新拒絶通知を借主に行う

契約更新の拒否を検討している物件オーナーは、まず初めに賃貸契約書に記載されている解約通知期間内に更新拒絶通知を入居者に行います

物件オーナーから更新拒絶通知を入居者に行われた入居者は、要求に応じるのか、断るのかを決めなくてはなりません。入居者が物件オーナーの要求に応じてくれた場合は、賃貸借契約の解約手続きに移行します。

しかし、応じてくれなかった場合は、強制的に入居者を追い出すことはできません。入居者が応じてくれないからといって強制的に追い出そうとすると、入居者から訴えられてしまうので注意しましょう。

②応じない場合は弁護士に依頼する

更新拒絶通知を送っても入居者が更新拒絶通知に応じてくれない場合は、どうやって入居者を退去させればいいのかを弁護士に相談します

入居者の中には、物件オーナーの要求に応じなくても強制解約されることはないということを知っていて、わざと要求に応じない人もいます。

そこで登場するのが弁護士です。弁護士と入居者に話し合ってもらうようにした場合、相手が法律の専門家なので入居者も諦めて要求に応じる可能性があります。

しかし、弁護士が強制解約できる権限を持っているわけではありません。話し合いが平行線でまとまらなかった場合は、次の手順に移行します。

③応じない場合は裁判所に立退きを請求する

弁護士に依頼しても話がまとまらない場合は、裁判所に立退きを請求します物件オーナーの要求に正当事由が認められなかった場合は、立退き請求が却下される可能性もあるので注意が必要です。

また、裁判所に立退きを請求する場合、裁判所に訴訟を提起してから判決が出るまで数カ月の期間を要する、裁判費用や弁護士報酬などの費用がかかります。

手間と費用がかかるため、なるべく入居者との話し合いで契約解除に至ることができるように交渉に臨みましょう。

賃貸経営で契約更新を拒否するメリット

入居者トラブル

入居者が物件オーナーの契約更新拒否に応じなかった場合は、契約更新拒否を正当化するには手間と費用がかかります。そのため、契約更新拒否を考えていた物件オーナーの中には、契約更新拒否が誤った選択ではないか不安に感じている人もいると思います。

契約更新拒否は誤った選択ではありません。賃貸経営で契約更新を拒否するメリットとして、以下の2つが挙げられます。

  • 家賃滞納を解消できる
  • 入居者トラブルを解消できる

それぞれのメリットについて詳しく見ていきましょう。

家賃滞納を解消できる

頻繁に家賃滞納する入居者を抱える物件オーナーは、契約更新を拒否することで、家賃滞納を解消することが可能です。

家賃滞納が続いた場合は、賃貸経営で得られる家賃収入が減少するため、キャッシュフローが悪化します。その結果、ローンの返済に追われて賃貸経営の継続が困難になる可能性も。

契約更新を拒否しない場合は、物件オーナーが家賃滞納を黙認することになるため、入居者の家賃滞納が改善する可能性はさらに低くなるので注意が必要です。しかし、家賃滞納に対して契約更新拒否という毅然とした態度をとれば、家賃滞納が改善する可能性があります。

また、入居者が契約更新拒否に応じず、裁判に発展した場合でも、物件オーナーの正当事由が認められる可能性が高いと言えます。家賃滞納を解消して安定した賃貸経営を継続したい人は契約更新を拒否した方が良いと言えるでしょう。

入居者トラブルを解消できる

入居者トラブルを抱える物件オーナーも、トラブルを頻繁に起こす入居者の契約更新を拒否することで、入居者トラブルを解消することが可能です。

近隣住民とのトラブルを起こす入居者は、家賃滞納のケースとは異なり、賃貸経営で得られる収入がすぐに減少するというわけではありません。そのため、契約更新を拒否せず、そのまま放置している物件オーナーも多いと思います。

しかし、そのような入居者をそのまま放置していると、他の入居者が不満を抱いて退去に至る可能性が高くなります。その結果、空室が増えたことによって、キャッシュフローが悪化する可能性が高まるという点に注意が必要です。

近隣住民とのトラブルを起こす入居者を契約更新拒否した場合には、本人も不満を抱いていて解約に応じてくれる可能性があります。

裁判になった場合でも正当事由が認められる可能性が高いため、入居者トラブルが原因で他の入居者が退去するリスクを抑えたい人は契約更新を拒否した方が良いでしょう。

まとめ

物件オーナーと入居者が交わす賃貸借契約は、一度賃貸契約書に署名・捺印すれば終わりではありません。契約期間があらかじめ設けられており、契約期間の満了を迎えたタイミングで、契約更新または契約終了のいずれかを選択することになります。

物件オーナーの中には、入居者に問題があって契約更新を拒否したいと考えている人も多いと思います。物件オーナーは賃貸契約書に記載されている解約通知期間内であれば、契約更新を拒否することが可能です。

しかし、入居者が要求に応じない場合、正当事由がないと要求が認められません。そのため、どのようなケースで正当事由が認められるのか、契約更新を拒否するにはどのような手続きが必要なのかをよく確認しておきましょう