
サラリーマンなどの給与所得者の場合、税務申告などの知識も経験もないという方がほとんどでしょう。
このため、不動産投資に興味があっても、税金に対する不安から躊躇しているという方も多いはず。
「不動産経営を始めれば確定申告が必要」という情報もあれば、「確定申告が不要になる」「節税になる」場合もあるといった記事も出てくるため、混乱される方も多いかと思います。
今回は、不動産投資を始めた場合に必要になる税金に関する基礎知識と方法について分かりやすく解説してみたいと思います。
不動産投資では確定申告をするのが原則
まず、確定申告という仕組みについて簡単に学んで行きましょう。
確定申告とは
私たちが得た所得には原則として「所得税」がかかります。しかし、所得は一定とは限らず、前もって計算することはできません。
従って、一年間の所得が「確定」した時点で「申告」し、所得税を計算するのが確定申告という制度です。
ちなみに、給与収入のある会社員等の場合は、ざっくりと所得税を設定して毎月納税し、年末調整という形で過不足を調節する形をとっています。
課税対象の所得が確定した時点で計算し、所得税を納めることに変わりはありません。
また、源泉税(源泉所得税)も、支払い側が一定の所得税相当額を差し引いて支払い、確定申告で源泉徴収票などをもとに過不足分を調整する課税方式です。
不動産所得の場合も、1年間の不動産所得が確定した時点で申告し、所得税を納めることになるのです。
不動産投資で確定申告が必要になる基準は20万円
不動産所得が発生したら確定申告が必要と書きましたが、不動産所得が年間20万円を超えない場合は確定申告の必要はありません。
つまり、年間不動産所得が20万円以下なら申告の必要はなく所得税も発生しないのです。(ただし、固定資産税などは発生するので、ご注意ください)
不動産所得の計算方法
不動産所得とは、単純に家賃や共益費の合計額ではなく、それらの収入から不動産経営に関わる経費を差し引いた額となります。
不動産所得の計算式
不動産収入-必要経費=不動産所得
つまり家賃などの不動産収入金額はあくまでも売上であり、そこから経費を差し引いた額が不動産所得となるわけです。
例えば、家賃10万円の賃貸マンションなら、年間不動産収入はざっと120万円になります。
一方で、管理委託料や税金、火災保険料、ハウスクリーニングや修繕費用などの経費が仮に80万円かかったとしたら、
家賃収入120万円-必要経費80万円=不動産所得40万円
となり、この40万円の所得に対して所得税がかかってくるわけです。
必要経費と認められる項目
必要経費が多ければ多いほど所得税を圧縮できるわけです。では、必要経費にはどのようなものが含まれるのか具体的に見ていきましょう。
税金
不動産を購入した際の不動産取得税や印紙税、毎年の固定資産税・都市計画税などの税金は経費として計上できます。
火災保険料
火災保険料も経費計上できますので、必ず掛けるようにしましょう。
ローン返済中は金融機関に火災保険加入を求められるものですが、完済後も忘れずに加入し続けましょう。オーナーの資産を火災や地震から守ってくれる唯一の守り神です。
管理委託料
管理会社への管理委託料ももちろん計上できます。そういう意味では、管理委託料が多少高くても信頼できる管理会社に委託する方が賢明と言えるでしょう。
修繕費
建物の屋根や外壁の改修、室内のクリーニング費用や壁紙・床の貼り替え、給湯設備やエアコンの交換などの費用も経費として計上できます(減価償却費として何年かに分けて計上して行くものもあります)。
建物の美観や快適性を高めることは入居者確保上重要な戦術となるので、経営者として積極的に投資すべきです。
減価償却費
建物は法律で耐用年数が定められており、木造は22年、鉄骨造は34年、マンションなどのRC造は47年などとなっています。
建物購入費用は、一括で計上するのではなく、これらの耐用年数で割った額を「減価償却費」として毎年計上していく仕組みになっています。
つまり、毎年一定の金額を経費として差し引くことができるため、その分不動産所得は減り、毎年の所得税を圧縮する効果があるわけです。
ローン金利
アパートローンなどの返済額の内、建物に関する金利分についても経費として計上することが可能です。
そういう意味では投資用ローンを多く借り入れた方が有利と考えがちですが、ローンの返済割合が大きいとちょっとした空室や金利上昇で赤字に転落するリスクが高まってしまいます。
しかも、決して金利分の税金が控除されるわけではなく、不動産所得にかかる所得税を抑える効果しかないのでローン借り入れを厚くするのは本末転倒です。
その他
他にも、税理士や弁護士に支払った報酬や、物件視察の際の交通費や手土産代、情報収集のために購入した書籍代なども経費として認められます。
もちろんあまりに高額なものや、頻度が高いような場合は税務署のチェックが入る可能性があるので、常識の範囲内で計上するようにしましょう。
目指すべきではない「確定申告が不要な不動産投資」
自己資金をほとんど用意することなく投資用ワンルームマンションを買った場合、月々の家賃収入からローン返済額を差し引くと、わずか2万~3万円程度しか残らないというケースも少なからず見かけます。
それでも業者は「経費を差し引いて年間20万円を超えない不動産所得には所得税がかからず、面倒な申告の必要もないのです!」などと言います。
しかし、新築物件でわずか2万~3万円のキャッシュフローしかない物件では、年数とともに確実に赤字に転落していくはず。
しかも現在は空前の超低金利時代で、1%でも金利が上昇しようものならたちまち赤字を垂れ流すだけのマイナス資産になってしまうのは避けられません。
つまり「経費を差し引いて20万円にすれば申告は不要」という言葉を鵜呑みにして、多額のローンを組んでしまうのは大変危険な行為なのです。
確定申告をしないと最悪の場合、懲役や罰金刑も
では、もし確定申告をしなかった場合は、どうなるのか見ていきましょう。
悪質な場合の罰則
結論から言うと、不動産所得があるのに確定申告をしないでいると大きな代償を払うことになります。
税務署はなぜ、保健所などのように税務「所」ではなく、警察署と同じ税務「署」なのかというと、強力な調査権や逮捕などの強い権限が与えられているからとも言われます。
実際、税金逃れが目的の無申告の場合「5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金またはその両方が課される」場合もあるそうです。
加算税によるペナルティ
そのような事態に発展しないまでも、ルールを守らない場合、加算税の対象者となり徴収されることになります。
無申告加算税
申告期限までに申告しなかった場合の罰則で、納めるべき所得税が50万円まで15%、50万円を超える部分は20%が加算されて徴収される可能性があります。
延滞税
納付期限までに納付しなかった場合、最大14.6%の延滞税が加算される可能性があります。
過少申告加算税
実際の所得よりも少なく申告した場合、50万円まで10%、50万円を超える部分は15%が加算されて徴収される可能性があります。
不動産経営の所得隠しはバレやすい
平成27年度の国税庁調査データによると、税務調査が入る確率は法人で3.1%、個人で1.1%というレベル。
確率で言えば、極めて低いと言えますが、不動産経営の場合は、不正が捕捉されやすいという側面があるので注意が必要です。
例えば、管理委託会社に税務調査が入れば、そこから大家さんの情報が把握される可能性があるのです。
他にも、プロパンガス会社や修繕を依頼した工務店、家賃保証会社など、様々な企業や事業者とのつながりが不可欠なことから、隠そうにも隠せないのが実態です。
確定申告をしないことによるメリットとデメリットを天秤にかければ、デメリットの方がはるかに大きい事がわかります。
「赤字でも節税になる」は本当?
もうひとつ、税金にまつわる話として「不動産経営が赤字でも所得税や住民税の節税になる」という説が語り継がれています。これも果たして本当なのか、見ていきましょう。
損益通算のしくみ
所得税の計算には「損益通算」という仕組みがあります。
本業の他に副業を持っているような場合、本業では利益が出ていても副業が赤字というケースもあり、その場合、本業と副業の損益を合算して所得税を計算するというものです。
これを総合課税と言います。株式投資などで得た収益は分離課税となり、本業の収益とは関係ないため、仮に株式投資で赤字が出ても所得税の節税にはなりません。
そういう意味では損益通算のできる不動産投資には有利な面があると言えるでしょう。
つまり、給与所得者が不動産経営を行うような場合、不動産経営で生じた赤字分は給与所得から差し引くことで課税所得を圧縮することができ、その分所得税の納税額を引き下げる効果が生まれます。
課税所得を抑えることは市民税・県民税などの個人住民税や国民健康保険税などを引き下げる効果もあるので、幅広く節税できるわけです(それほど大きな金額ではありませんが)。
これが「不動産経営で赤字が出ても節税になるので安心」という理屈なのですが、これも“眉に唾をつけて聞いておく”必要があります。
大体、家計全体の所得を減らして、節税する意味がどこにあるのでしょう?
業者は「30年後に資産が残る」「公的年金を補う」などと言葉巧みに心理誘導しますが、そもそも節税額以上に収益の上がる物件に投資すれば良いだけなのは、言うまでもありません。
「しっかり儲けてしっかり納税」が不動産投資の鉄則
不動産経営は建物が古くなるにつれ、収益性は年々下がっていく宿命を抱えています。
つまり、今よりも5年後、10年後は収益性が悪化して行くわけですから、事業の初めから赤字の投資物件などまさに論外中の論外。
節税分が吹き飛んでしまうほどの巨額の赤字が待ち受けているだけです。
世の中には、納税がまるで馬鹿馬鹿しい事であるかのような風潮があります。
しかし、納税は社会を豊かにする、つまり誰もができる「社会貢献」という見方もできます。
むしろ「しっかり儲けてしっかり所得税を納税する」ことで、貴方も社会も得をする「win-win」の関係が生まれるのです。
節税などではなく、できるだけ収益性の高い優良物件を探して投資するのが不動産経営の王道だということを心得ておきましょう。
きちんとした管理会社なら確定申告もラクラク
最後に、確定申告の方法について簡単に見て行きましょう。
2つの申請方法
確定申告には青色申告と白色申告があります。
どちらかを選ぶというよりも、青色申告にはいくつかのハードルがあり、それをクリアできる方が申請して青色申告を行うのです。
青色申告を申請しなかった(できなかった)方は自動的に白色申告となります。
青色申告
青色申告には、控除対象と認められれば65万円の青色申告特別控除などの税控除が受けられる他、配偶者などを従業員としてまとまった給与を支払える(専従者給与)といったメリットがあります。
その反面、複式簿記での詳細な帳簿作成や、帳簿や関係書類も厳格な保存が求められるなど、ある程度の簿記スキルと事務負担が必要という難点も指摘されます。
会計ソフトの登場で、作業は大きく軽減しているものの、やはり初めての方にはハードルが高いと言えるでしょう。
所有する収益不動産の事業的規模が大きくなっていけば(5棟10室以上のアパート・マンション経営など)、青色申告の方がメリットを生みますが、初めて賃貸経営を行う方は白色申告で十分です。
白色申告
白色申告は、帳簿の記載などがより簡単で、特別な知識がなくても申告できるため、初めて賃貸経営を行う方には安心です。
提出書類も青色申告よりも少ないため、本業が忙しいという方にもピッタリな方法と言えます。
デメリットとしては青色申告よりも控除が少ない事や、専従者給与の全額を経費計上できないなどが挙げられます。
ただし、事業規模が小さく、不動産所得も少ない間は大差ないのが実情です。
きちんとした管理会社なら確定申告もラクラク
ちなみに筆者は仙台でアパート経営を行って15年ほどになります。もともと個人事業者として著述業を営んでいたため、アパート経営についても青色申告の中で行っていました。
しかし、やはり青色申告は帳簿付けが大変だったこともあり、数年前から白色申告に切り替えました。
その結果、それまで依頼していた税理士や計理士への支払いもなくなり、年間数十万円の節約になったのです。
また、アパート経営に関する収支については管理会社が毎月収支明細書を送ってくれます。1月には1年分の収支内訳一覧表を送ってくれるので、これを添付して申告するだけです。
修繕費を含め、費用が発生する業務の殆どを管理会社経由にしているため、面倒な仕分け作業はほぼありません。
あとは、金融機関から送られてくる返済票や税金の受領証、管理会社以外に支払った項目の領収書などを添付すれば完了です。
つまり、管理会社からの収支一覧表で、申告作業の9割が済んでしまっているようなものです。
管理会社自体が仙台では中堅クラスで、信頼性も高いためスムーズに受け付けてもらえるのも利点です。
確定申告という面でも、信頼のあるきちんとした管理会社を選ぶことが重要と言えるでしょう。
まとめ
不動産経営には確定申告が必要です。「不動産所得が20万円までなら申告不要」なのは確かですが、そのような収益性の低い投資は避けるべきです。
ローン金利が必要経費に入るからと言って、間違っても多額のローンを組んではいけません。ローン返済比率が高くなると、ちょっとした空室や金利上昇で赤字に転落する恐れがあるからです。
確定申告を怠ったり、申告のルールを守らなかったりした場合、大きな代償が待ち受けています。デメリットの方が大きいので誠実な申告をする方が賢明です。
「不動産所得が赤字でも節税になる」という説は、収益性の悪い物件を売りつけるための苦し紛れのセールストークに過ぎません。
節税よりも、収益性を重視することが鉄則で、しっかり儲けてしっかり納税するという心構えで事業に臨むべきです。
確定申告には青色申告と白色申告がありますが、初めて不動産投資する方は白色申告から始めましょう。
また、きちんとした管理会社なら、収支の管理も的確に行ってくれるので、申告作業も大きく軽減できます。
確定申告の負担軽減という意味でも、優良な管理会社を選ぶことが重要です。