部屋をゴミ屋敷にする入居者はすぐに追い出せる?追い出す手順を解説

投稿日2020/10/22
更新日2020/10/22
ゴミ屋敷

賃貸アパートや賃貸マンションなどを所有して賃貸経営を行っている賃貸オーナーの中には、部屋をゴミ屋敷にする入居者の対応に悩んでいる人も多いと思います。

そのような入居者を放置すると、害虫や悪臭の発生で他の住民の不満が募る、火災のリスクが高まるのですぐに対応した方が良いと言えますが、入居者は簡単に追い出せるのでしょうか?

この記事では、部屋をゴミ屋敷にする入居者の対応に悩んでいる賃貸物件オーナーに向けて、入居者を追い出せるのか、入居者を追い出す方法や注意点などを解説します。

ゴミ屋敷の入居者は追い出せるが容易ではない

追い出し

賃貸アパートや賃貸マンションといった収益物件を所有して運用している大家さんの中には、入居者が部屋を掃除せずゴミ屋敷化して困っているという人も多いと思います。

「追い出せばいいだけなのでは?」と思った人もいるかもしれませんが、賃貸契約では物件を貸し出す貸主の立場が強く、借主の立場が弱くなりやすいため、借主を守る傾向があります。

そのため、入居者を追い出すことは容易ではありません。どのような対応であれば可能なのか詳しく見ていきましょう。

立退きを請求しても入居者に応じる義務はない

オーナーは、部屋をゴミ屋敷にする入居者に立退きを求めることが可能です。入居者は家賃を支払っているからと言って部屋を自由に使用できるわけではなく、賃貸契約に定められているルールの範囲内でしか使用できません。

借主は部屋を借りて賃貸生活を送っている間は、部屋を貸主に明け渡すまで善良なる管理者の注意義務をもって部屋を保管する必要があります。これを善管注意義務と言います。

部屋をゴミ屋敷にするのは善管注意義務に反しており、善管注意義務違反は契約解除に値する行為であるため、オーナーはそれを理由に立退きを求めることが可能です。

また、賃貸契約更新時に入居者が更新を要求している場合、オーナーは余程の理由がない限り更新を拒否できませんが、善管注意義務違反を理由に拒否できます。

しかし、立退きを求めることができる、契約更新を拒否できるだけで、入居者が応じなければ入居者を追い出すことができないので注意が必要です。

損害賠償を請求できるが時間と手間がかかる

入居者にゴミを撤去するように要求しても応じず、害虫や悪臭が発生して耐えきれなくなった他の入居者が退去に至った場合は、損害が生じているという理由で損害賠償を請求することが可能です。

また、害虫や悪臭で汚れや匂いが付着した場合、敷金を使って原状回復を行いますが、敷金が不足する場合は不足分を入居者に請求できます。

ただし、立退きのケースと同様、損害賠償や不足分を請求しても入居者が応じなければ意味がありません。入居者が請求に応じない場合、裁判で損害賠償や不足分の支払いを認めてもらう必要があるため、時間と手間がかかるということを覚えておきましょう。

そのまま放置するデメリットは大きい

賃貸住宅を所有するオーナーの中には、立退きや損害賠償を請求することで入居者との関係が悪化してトラブルが深刻化する可能性があるため、穏便に済ませたいと思っている人も多いと思います。

しかし、対応せずにそのまま放置すると以下の3つのデメリットを伴うため、毅然とした態度で臨むことが重要です。

  • 害虫や悪臭が発生する
  • 火災のリスクが高まる
  • 近隣住民が退去する

それぞれのデメリットについて詳しく見ていきましょう。

害虫や悪臭が発生する

ゴミ屋敷をそのまま放置した場合は、部屋が不衛生になってゴキブリやハエ、ウジ虫といった害虫、食べ残しや生ゴミなどが腐敗して悪臭が発生するので注意が必要です。

害虫の死骸やゴミの影響で床に染みが残った、悪臭がクロスや床に染みついた場合は、室内のクリーニングやクロスや床材の交換が必要になるため、無駄な費用がかかります。

時間が経てば状況が悪化してさらに無駄な支出が増えるため、速やかに部屋をゴミ屋敷にする入居者を追い出すことが重要と言えるでしょう。

火災のリスクが高まる

タバコの不始末またはコンロやコンセントからの発火など、日常には火災が生じるリスクが潜んでいますゴミ屋敷の場合、火災が生じるリスクが他よりも大幅に高いので注意が必要です。

賃貸住宅で火災が生じても、初期消火をしっかり対応すれば火が燃え移る前に鎮火することが可能です。しかし、ゴミ屋敷は、ゴミを燃料として燃え広がるため、初期消火が追いつかずに全焼する可能性も。

オーナーが火災保険に加入していれば、入居者の過失によって火災が生じた場合でも保険金を受け取れるため、賃貸住宅を建て直して不動産賃貸経営を再開させることが可能です。

しかし、火災が原因で死者が生じた場合は、事故物件として扱われるため、経営の再開はほぼ不可能です。火災のリスクを少しでも抑えるためにも、速やかに対応しましょう。

近隣住民が退去する

ゴミ屋敷は隣室の入居者にも影響を与えます。影響が軽微なうちは問題ありませんが、影響が甚大になると現状に耐えかねた近隣住民が退去する可能性があるので注意が必要です。

部屋がゴミ屋敷化して害虫や悪臭が発生している場合は、隣室の入居者も害虫や悪臭の被害を受けていることがほとんどです。不快を感じながら入居を続けてくれる人は少なく、解約して他の賃貸住宅で暮らそうと考えるため、近隣住民の退去が目立つようになります。

トラブルにより多くの収入を失ってしまうので、速やかに対応して影響を最小限に抑えることが必要不可欠と言えるでしょう。

入居者を追い出す際に押さえておくべき注意点

立ち退き

入居者に立退きを求めることは可能ですが、立退きに応じるかどうかは入居者次第です。仮に入居者が立退きに応じない場合は、外出中に勝手に鍵を交換して追い出したり、勝手にゴミを捨てたりしても良いのでしょうか?

入居者を追い出す際の注意点を詳しく見ていきましょう。

勝手に鍵を換えるのは禁止

入居者の外出中に勝手に鍵を交換して強制的に入居者を追い出す、ゴミの撤去に応じれば鍵を渡すという対策をとればゴミ屋敷問題を解決できると考えている大家さんも多いと思います。

しかし、勝手に鍵を換えるのは違法行為に該当し、住居侵入罪や窃盗罪などの刑事事件として扱われる可能性があるので注意が必要です。

「入居者がトラブルの根源なのに?」と思った大家さんも多いと思いますが、判例でも法的な手続きに基づかない自力救済は禁止されています。勝手に鍵を交換した大家さんが損害賠償を支払うように請求される可能性もあるため、鍵を勝手に交換するのは止めましょう

勝手にゴミを捨てるのも禁止

勝手に鍵を変えることはできなくても、入居者の外出中に勝手にゴミを捨てるのは問題ないと考えている大家さんも多いと思います。しかし、勝手にゴミを捨てるのも禁止されているので注意が必要です。

勝手に処分するのが禁止されている理由は、周囲にとっては不要なゴミであっても、入居者に所有権があり、勝手に処分すると所有権の侵害に該当するためです。

こちらも判例では法的な手続きに基づかない自力救済は基本的に禁止されており、損害賠償を支払うように請求される可能性があるので注意しましょう

事後対応は大変なので未然に防ぐことが重要

物件オーナーの自力救済は禁止されているため、入居者が立退きに応じなければ法に基づいて立退きを求めることになります。

裁判所に立退きを求めることになった場合は、時間と手間がかかるだけでなく、認められない可能性もあるので入居者を追い出すことは容易ではありません。

では、部屋をゴミ屋敷化するような入居者とのトラブルを未然に防ぐにはどうすればいいのでしょうか?トラブルを未然に防ぐ方法として、以下の2つが挙げられます。

  • 入居審査を丁寧に行う
  • 賃貸借契約書に明記する

それぞれの方法について詳しく見ていきましょう。

入居審査を丁寧に行う

入居審査を疎かにしていると、部屋をゴミ屋敷化させる入居者に遭遇するリスクが高まるので注意が必要です。

マンション経営やアパート経営といった不動産投資では、空室が生じると安定した家賃収入が得られません。そのため、空室の入居希望者が見つかった場合に入居審査を簡単に済ませて、空室を埋めることに注力しているオーナーも多いと思います。

しかし、入居審査を疎かにしていると、入居者の質が低下することによって入居者トラブルが生じやすくなるので注意が必要です。入居者トラブルを少しでも防ぐには、入居審査を丁寧に行うことが必須と言えるでしょう。

賃貸借契約書に明記する

ルールを守らない入居者を未然に防ぐには、重要事項説明書や賃貸借契約書などにどのようなルールを守らなかった場合に契約解除に至るのか明記しておくことが重要です。

所有物件の新たな入居者が決まった場合、物件オーナーは入居者と賃貸借契約を締結します。賃貸借契約を締結する際は、重要事項説明と賃貸借契約書の作成が行われます。

これらの書類には、物件情報や家賃・敷金・礼金、保証人などの契約に関する内容、入居者が遵守するルールなどが記載されています。

重要事項説明書や賃貸借契約書にゴミを適切に処理しない入居者については契約解除に至る、損害が生じた場合は賠償責任を負う旨を明記すれば、ルールを守らない入居者を避けることが可能です。

家賃滞納や騒音などの考えられる様々なトラブル事例を盛り込んでおけば、トラブルが生じるリスクを抑えられるでしょう。

ゴミ屋敷に住む入居者を追い出す手順

裁判所

ゴミ屋敷に住む入居者を追い出す際に、誤った方法で対応すると反対に損害賠償を請求される可能性があります。そのため、リスクを抑えるためにも、ゴミ屋敷に住む入居者を追い出す正しい手順を把握しておくことが重要です。

ゴミ屋敷に住む入居者を追い出す手順は以下の通りです。

  1. 期日を決めてゴミの撤去を求める
  2. 善管注意義務違反を理由に契約解除を申し出る
  3. 契約解除に応じない場合は弁護士に相談する
  4. 裁判所に強制退去を容認してもらう

それぞれの手順を詳しく見ていきましょう。

①期日を決めてゴミの撤去を求める

入居者が部屋をゴミ屋敷化している場合、まず期日を決めてゴミの撤去を入居者に求めます。入居者にゴミの撤去を求める際は直接本人に口頭で伝えるという方法がありますが、言った・言わないでトラブルになる可能性があります。

そのため、いつゴミの撤去を入居者に求めたのかを正確に把握しておくために、内容証明郵便で通達文を送ることが重要です。

期日を決める際には余裕をもって設定する、一度の通知だけではオーナーへの影響が軽微だと判断される可能性もあるので注意が必要です。例えば、2カ月の猶予を設ける場合には、最初の通知の次は期日の1カ月前、2週間前、1週間前など複数回にわたって通知します。

そうすれば、何度も通知しているにもかかわらず無視していることになるため、入居者の善管注意義務違反が明確になります。また、通知文を送る際は、期日までにゴミを撤去しなければ契約解除に至る旨もしっかり明記しておきましょう

②善管注意義務違反を理由に契約解除を申し出る

通知文に記載されている期日を迎えても入居者がゴミを撤去しない場合、オーナーは善管注意義務違反を理由に契約解除を入居者に申し出ます。

入居者に契約解除を申し出たからと言って、すぐに入居者を追い出せるわけではありません。余裕をもって契約解除の期日を設定しなければ、契約解除が無効扱いになる可能性があるので注意が必要です。

契約解除を申し出ても、入居者が契約解除に応じなければ契約を解除できません。そのため、入居者が契約解除に応じてくれるように話し合いを進めていく必要があります。

例えば、新しい物件を入居者に提案する、引っ越し費用や家賃、敷金・礼金などの初期費用を負担する、原状回復費用(修繕費用)を負担するなどです。

相手に有利な条件を提示すれば契約解除に応じる可能性が高くなります。裁判に発展すると手間と費用がかかるため、この段階で応じてもらえるように交渉に臨みましょう

③契約解除に応じない場合は弁護士に相談する

入居者が契約解除に応じない場合は裁判に発展することになります。しかし、裁判の手続きは知識のない人が進めるのは容易ではありません。そのため、まず法律の専門家である弁護士に相談するのが一般的です。

弁護士に相談すれば、裁判以外の対処法を提案してもらえる可能性があるため、手間と費用を抑えることが期待できます

また、弁護士が入居者と話し合った場合、専門家の登場に入居者が諦めるケースも多いため、交渉がスムーズに進む可能性も。

ただし、弁護士に相談する際は報酬を支払わなくてはならないので注意が必要です。費用を少しでも抑えたい人は無料相談を受け付けている弁護士に気軽に相談してみましょう

④裁判所に強制退去を容認してもらう

弁護士が対応しても入居者が契約解除に応じない場合、いよいよ裁判に移行します。

まずは裁判所に物件の明け渡し訴訟を提起します。勝訴判決を得た場合は、続いて強制執行を裁判所に申し立てますが、弁護士の着手金や報酬金といった裁判費用は100万円程度かかるので注意が必要です。

また、判決が出るまでに6カ月程度の期間がかかります。この時点で入居者にゴミの撤去を求めてから1年以上も経っているため、費用と時間がかかるということを覚悟しておく必要があります。

裁判所に訴訟を提起しても必ず強制退去を認めてもらえるわけではありません。賃貸契約では物件オーナーよりも入居者の権利を守るため、契約解除に値する明確な損害が生じていないと判断された場合、オーナーの要求は退けられてしまいます。

裁判所に容認されてようやく強制退去を実行できるため、裁判所に容認してもらえる可能性を高めるためにも正しい手順で入居者に対応しましょう

まとめ

アパート経営やマンション経営などの賃貸経営を営んでいる賃貸オーナーの中には、入居者が部屋をゴミ屋敷にして困っているという人も多いと思います。そのような入居者は、善管注意義務違反を理由に、入居者に立退きを求めることや損害賠償を請求することが可能です。

しかし、入居者が応じなかった場合でも強制退去させることはできず、勝手に鍵を変更したり勝手にゴミを処分したりした時は損害賠償を請求される可能性があるので注意が必要です。

それらの失敗を未然に防ぎながら部屋をゴミ屋敷にする入居者を退去させるには、手順を理解してから臨む必要があります。

自主管理のオーナーは、賃貸管理会社に相談するといったように、状況が悪化する前に速やかに専門家に相談することが重要と言えるでしょう。