相続財産管理人の業務とは?選任方法や費用についてわかりやすく解説

投稿日2020/11/10
更新日2020/11/10
相続財産管理人

遺産があるにもかかわらず、相続財産を管理する人が誰もいなかった場合「相続財産管理人」という相続の責任者をたてることがあります。では、この相続財産管理人は誰を任命することができて、依頼料はどのくらいかかるのでしょうか。

そこで今回は、相続財産管理人の業務についてわかりやすく解説いたします。相続財産管理人の選任方法や費用について、より詳しく知りたい人は、ぜひ本記事を参考にしてください。

相続財産管理人とは?業務内容と役割について

相続財産管理人

日本の法律では、相続人以外が遺産を勝手に処分することはできません。許可なく勝手に処分した場合は、身内でも法律で罰せられてしまう可能性があります。

ところが「相続人がいない」「全員が相続放棄した」という状態で、遺産が宙ぶらりんのままになってしまうケースも少なくありません。では、故人が残した遺産を、分配したり清算したりするためにはどうしたらいいでしょうか。

ここで登場するのが、故人の遺産を処分できる権限を持つ「相続財産管理人」です。

相続財産管理人は、相続人が不在の時に限り、故人の財産を処分することができる、いわば「遺産処分の代行人」なのです。

相続財産管理人の役割について

相続財産管理人とは、相続人に代わり遺産の「調査」「精算」「管理」「処分」などを行う責任者です。故人の遺産額や債権者の有無を調査したり、支払いを済ませたりすることが許されています。

ただし、相続財産管理人は相続人とは別物。自身が相続人となることや、相続人に代わって遺産を好き勝手にできるわけではありません。

相続財産管理人の権限と業務内容について

相続財産管理人には「ある一定の権限」が与えられており、権限の範囲外のことはできません。

権限とは「保存行為及び物や権利の性質を変えない範囲」というもの。この権限の範囲内で、相続処分に関する以下のような業務を行う(履行する)ことができるのです。

債務の履行や受領 借金を支払うことや、受け取り金などを受領する
事務管理費用の支払い 様々な手続きなどに関する費用の支払い
樹木や建物の維持管理 不動産の維持管理に関すること
税金の納付 固定資産税などの税金の支払い
財産分与 特別縁故者への財産分与の手続き
財産の国庫帰属 余った遺産を国庫に帰属させる手続き

相続財産管理人は、被相続人がやり残した借金の支払いや不動産の維持管理、納税などを行うことが許されています。具体的には、滞納分の家賃の支払いや固定資産税の納付、特別縁故者への財産分与や余分財産の国庫帰属などが、相続財産管理人の行う業務です。

特別縁故者とは

特別縁故者(とくべつえんこしゃ)とは、相続人がいない場合に相続する権利を得た人のこと特別縁故者は、血の繋がりが重視されるわけではなく、法律に従い以下のような状況に置かれた人が、特別に相続人として認められることになります。

  • 被相続人と生計を共にしていた人
  • 被相続人の看護や介護に努めた人
  • 遺産を譲ると約束していた人
  • 家族同然の関係にあった人
  • 経営に深く関わっていた法人

上記のように「被相続人と深い繋がりを持っていた人」は、特別縁故者として相続人となることが可能。ただし、特別縁故者として認められるためには、家庭裁判所に申し立てる必要があります。

国庫帰属とは

国庫とは、いわば国の金庫。そして国庫帰属とは、遺産を国に寄付することを指します。簡単にいうと、引き取り手のなくなった財産は、国に寄付されることになるのです。

ただし、すべての財産がすぐに国庫帰属とはなりません。国庫帰属となる前に「一定の資産価値がある」「他人に悪影響を及ぼしていないか」など、財産の調査が行われます。つまり「財産が不要」「処分が面倒」だからと言って、何でもかんでも国で引き取ってくれるという訳ではないのです。

相続財産管理人ができないこと

反対に、相続財産管理人ができないこともあります以下のようなことは、相続財産管理人の権限の対象外です。

解約行為 契約を解約する行為
不動産の売却 被相続人の不動産売却行為
建物取り壊し 建物を解体したり撤去したりする行為
訴訟 誰かを訴えたり和解したり示談交渉したりする行為

例えば、被相続人が住んでいたアパートを解約したり、所有マンションを売却したり、空き家となった家を解体したりすることはできません。また、相続財産に関する訴訟行為を行うことも認められていません。

遺産を適切なところへ分配することが、相続財産管理人の役割。そのため通常の相続人より、できることが限られているのです。

相続財産管理人の選任方法と費用

家庭裁判所

遺産の調査や管理を任される相続財産管理人ですが、どんな人でも選任することができるのでしょうか。ここからは、相続財産管理人の選任方法と費用について解説していきます。

選任方法と条件について

相続財産管理人は、相続人がいないからと言って自動的に相続財産管理人に選任されたり、好きな時に任意の人が就任できたりするわけではありません。相続財産管理人は、以下の条件を満たしたときに、はじめて選任されることになります。

条件1.選任できる状況にあること

まず一つ目は、故人である被相続人が借金を残しており、借金の督促がかかっている状況にあることです。相続人がいなければ、遺産に手をつけることができませんので、遺産から借金を支払うために、相続財産管理人が必要となります。

また特別縁故者がいることや、相続を放棄した相続人が遺産管理をし続けなければならないなど「遺産を適切に処分しなければいけない」と判断された場合に、相続財産管理人が選任されます。

遺産を処分または管理しなくても、問題が発生しない場合には相続財産管理人が選任されることは、あまりありません。

条件2.家庭裁判所へ申し立てが必要

相続財産管理人を選任するためには、家庭裁判所への申立てが必要です。選任を申し立てる人は、利害関係人もしくは検察官となります。利害関係人とは、被相続人と何らかの密接な関係を持った人のこと。相続に関しては以下のような人物が利害関係人となります

  • 被相続人の債権者
  • 特別縁故者
  • 特定遺贈者

例えば、被相続人から「財産を譲る」と言われた人がいたと仮定します。しかし、法定相続人でなければ、遺産を勝手に処分することができないと説明してきました。そのため、相続人ではない人が遺産を譲り受けるためには、自らが家庭裁判所へ申立て、相続財産管理人に特別縁故者として財産分与をしてもらわなければいけないのです。

条件3.相続財産管理人は家庭裁判所が決める

相続財産管理人は、家庭裁判所が任命します。多くの場合、弁護士や司法書士など、公平な判断が下せる専門家が任命されます。

相続財産管理人となるための資格は不要ですし、申立て人が相続財産管理人を指名することもできます。しかし、最終的には、家庭裁判所が候補者の中から相続財産管理人を決めるのが一般的な流れです。

選任費用や報酬について

相続財産管理人に関する費用は「選任費用」と「予納金」があります。費用の相場は、以下の通り

項 目 内 容 相場金額
選任費用 相続財産管理人を選任するための費用 収入印紙 800円程度

官報広告料 4,000円程度

郵便切手代

予納金 裁判所に納める費用 20万円程度

相続財産管理人の報酬は、被相続人の遺産から支払われます。報酬は相続財産管理人本人に直接支払うのではなく、裁判所に支払う流れです。

金額については、それぞれのケースに応じて、家庭裁判所が適切な額を決めることになります。上記の20万円はあくまでも一般的な相場ですので、参考程度に捉えておいてください。

相続財産が少なく予納金が賄えない場合には、申立て人に予納金の請求がいくケースもあります。

相続財産管理人の選任から管理業務完了までの流れ

相続財産管理人

では、実際に相続財産管理人を選任してから管理業務をしてもらうまでの流れについて、みていきましょう。

相続財産管理人の選任の申立

まずは、相続財産管理人を選任するために、裁判所に申立てを行います。申立人となる人は、審査を受けるために、申立てに必要な書類を揃えて家庭裁判所に提出しなければいけません。

申立てに必要な書類

  • 被相続人の戸籍謄本(出生時から死亡時までのもの)
  • 被相続人の父母、子、兄弟(姉妹)の戸籍謄本(他界している身内も含む)
  • 代襲相続者(甥、姪など)
  • 被相続人の住民除票
  • 不動産登記事項証明書(未登記の場合は固定資産税評価証明書)
  • 預貯金や有価証券の残高確認できるもの
  • 利害関係人との関係を証明する身分証

用意する書類は主に「相続人の有無を証明する書類」「財産の有無を確認する書類」です。法定相続人と呼ばれる「本来であれば財産を受け継ぐ人」が本当にいないのかどうか、そして処分の対象となる財産はどのくらいあるのかを証明する書類が必要です。

相続人がいないことも証明する必要がありますので、すでに他界している身内の戸籍謄本も用意しなければいけません。

相続財産管理人の選任

上記の書類を提出し、審査を終えれば相続財産管理人の選任が行われます。選任にかかる時間は申立てから、およそ2カ月。相続財産管理人が選任されれば、官報と呼ばれる国からの文書によって知らされます。官報はインターネットから無料で閲覧可能です。

審査の進捗状況によっては、2カ月以上経過しても相続財産管理人の選任が終わらないこともあります。債権者や受贈者(財産を受け取る人)、財産の調査などの確認作業が終わらないとき、2カ月以上の時間を要するかもしれません。

債権者・受遺者への支払い

家庭裁判所から、債権者と受遺者に対して請求の申し出や催告を行います。申し出に対して、債権者と受遺者から届出があれば、支払い開始です。債権者には借金の清算が行われ、受遺者には財産の支払いが行われます。

もし借金の方が多い債務超過である場合は、按分配当が行われます。按分とは基準に合わせて割合で金額を割り振ること。ここで清算が終われば、財産管理業務は終了です。

相続人捜索の公告

支払いが終わっても財産が余っている場合には、他に債権者や受遺者がいないか相続人捜索の公告が行われます。公告から半年以上経過しても申し出がなければ、相続人不在が確定。相続財産がすくなければ、この手順は行われません。

特別縁故者に対する財産分与

相続人捜索の公告が終了すれば、特別縁故者への財産分与の手続きができるようになります。この手続きは自動的に開始されませんので、特別縁故者から申し出しなければいけません。申し出後に家庭裁判所から分与が認められれば、相続財産管理人から財産分与が行われます。

申立て期間は、公告終了後から3カ月以内です。

報酬の付与と国庫への引き継ぎ

すべての支払いが済んだあと、なお財産が余った場合は、相続財産管理人によって相続財産の国庫帰属が行われます。所有不動産は換金するなどして、国庫に帰属されます。もし将来的に道路や公共施設の設置場所として見込まれるような場合は、国で管理されることもあります。

相続財産管理人への報酬支払い/

相続財産管理人の業務が完了したら、報酬が支払われます。報酬額は、仕事量や案件の内容によって金額が異なります。報酬は相続財産から支払われますが、財産の額がすくないときは申立て人が負担することが、ほとんどです。申立て人に支払い能力がないときは、法テラスの民法扶助という制度を利用できます

相続財産管理人を選任せずに相続する方法

相続財産管理人を選任すると、費用がかかったり複雑な手続きに振り回されたりすることがあります。そのため、場合によっては相続財産管理人を選任しない方が得することも。まだ相続が始まってなく、これからのことを考えて相続財産管理人についてお考えのときは、以下のような方法もあります。

遺言書を活用する

自身に相続人がなく、財産を遺したい人が決まっているのであれば、遺言書を残すという手もあります。遺言書は財産の処分方法を自由に指定でき、相続人以外に財産を遺すことが可能です。遺言書では、遺産の遺し方のみならず、相続人の権利はく奪や遺言執行者の指定も可能です。

遺言書には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」があり、それぞれ正しい書き方があります。もし間違った書き方をしてしまうと、遺言書として認められないので、注意してください

もし法律で定められた相続人がいた場合、遺言で遺産について指定しても、遺留分という「最低限の遺産を渡すこと」を求められる可能性があります。遺留分の金額は法律で定められていますが、相続欠格者という相続人の資格をはく奪された人には、遺留分の請求が認められていません。

養子縁組を検討する

養子縁組とは、血縁関係にない人と親子関係を結ぶこと。養子縁組をすれば、血縁関係がなくとも相続人になることができ、財産分与が受けられます。

養子縁組は、相続対策としてしばしば活用されます。例えば、相続税対策で孫を養子にしたり、婿入りしたときに義両親と養子縁組したりすることも珍しくありません。

養子縁組するときは「双方に縁組の意思があり、合致していること」「養親が成年に達していること」「養子が養親の直系尊属または年長者でないこと」などが条件です。

相続にお困りのときは弁護士へ相談してみよう

状況によっては、相続財産管理人を選任せずともすむケース、相続財産管理人が選任できないケースもあります。相続財産管理人を選任するときは、財産の分配が困難なケースであることがほとんどです。また、相続人がいないことを証明するため、用意すべき書類も大量となってしまうこともあります。

個人では対処しきれないケースも多々あるため、早めに弁護士に依頼することをおすすめします。依頼するときは、相続問題に強い弁護士を選びましょう。初回の相談料が無料の事務所もありますので、まずは気になる弁護士事務所に問い合わせしてみるとよいでしょう。

まとめ

相続財産管理人は、被相続人の遺産を分配し、支払いや処理するために選任されます。家庭裁判所の判断に基づき、適任者が選任されることがほとんどです。相続財産管理人に支払う報酬は、遺産から支払われますが、遺産額が少ないときは申立て人が負担する予納金から支払われます。

相続財産管理人の選任は、費用が高額になってしまう、または手続きが難化することも。そのため、相続事案の中には、相続財産管理人に業務を依頼することが不利に働いてしまうケースも少なくありません。相続財産管理人に依頼すべきかを見極めるためにも、早めに相続対策に関して弁護士に依頼してみましょう