【事例で解説】立退きが認められる場合の正当事由と手順、注意点

投稿日2020/09/11
更新日2020/10/22
立ち退き

賃貸借契約ではどうしても部屋を借りる入居者の立場が弱くなるため、借地借家法によって過度に入居者の権利が守られています。

そのため、賃貸物件のオーナーの中には、入居者に立退きを求めたいものの、入居者の立場が守られているので、何とかして立退かせることができないか気になっている人も多いのではないでしょうか?

この記事では、借地借家法で守られている入居者を立ち退かせることはできるのか、立退きを求める際に正当事由は必要なのかなどを分かりやすく解説します。

立退き交渉は可能

引っ越し

結論から言うと、オーナーは入居者に対して立退き交渉を行うことが可能です。

とはいえ入居者の立場からすれば「オーナーの都合で立退きを求められると安心して入居できない」と不安になる方も多くなってしまいますよね。

そのため借地借家法という法律によって、オーナーが入居者に立退き交渉を行う際は以下のいずれかに該当していなければ立退き交渉を行うことができません

  • 契約違反による契約解除
  • 正当事由による更新拒否

それぞれの条件を詳しく見ていきましょう。

契約違反による契約解除

物件オーナーは、入居者に賃貸物件を提供する際に賃貸借契約を締結します。賃貸契約書には契約期間や家賃、賃貸物件を使用する際のルールが定められています。

入居者が賃貸物件を利用する際のルールに反する行為を行った場合は、契約違反を理由に解約の申入れを行うことが可能です。契約違反に該当するのは、以下のようなケースです。

  • 家賃を滞納した
  • 近隣住民とトラブルを起こした
  • 入居人数をオーバーした
  • 無断転貸を行った

契約期間の途中であれば、入居者が賃貸物件を使用する権利がまだ残っています。そのため、契約違反を理由とする解約の申入れを行うことは可能ですが、入居者が拒否した場合は裁判所に訴えを提起して解決を図ることになります

正当事由による更新拒否

今すぐに立退きを求めたい場合は、契約違反による解約の申入れを行いますが、そうでなければ正当事由による更新拒否による立退きを求めることになります。

賃貸契約書には契約期間が記載されており、賃貸人の大家さんは契約期間満了を迎える前に、契約更新または更新拒絶のいずれかを決めなくてはなりません。

そのため、大家さんは更新拒絶による解約を選ぶことも可能ですが、更新拒絶には正当事由が必要とされます。

更新拒絶の正当事由に必要性がないと判断された場合、入居者の賃貸物件を借りる権利が優先されて更新拒否ができなくなります。

また、交渉途中で契約期間満了日を迎えた場合は、契約終了ではなく法定更新によって契約が更新されるという点にも注意しましょう。

引っ越し費用の負担で立退きに合意してもらう方法もある

「入居者に立退きを求める際に、正当事由がなければ立退いてもらえない」と思っている人も多いかもしれませんが、そういうわけではありません。

正当事由がなくても、大家さんの申入れに入居者が合意した場合は契約解除が成立するため、入居者に立退いてもらうことが可能です。

しかし、賃借人側の入居者が賃貸人側の大家さんの要求に必ず応じてくれるとは限りません。その理由は、要求に応じた場合、入居者は次の住居を探さなくてはならない、家賃や保証金、敷金、礼金、引っ越し費用などの様々な費用がかかるためです。

上記のような理由から合意に至らないケースも多いため、交渉が長引くことを覚悟しておきましょう

立退き交渉で正当事由が認められるケース

建て替え

立退き交渉を行う際は、正当事由が必要と言いましたが、どんな事由であれば正当事由として認めてもらえるのでしょうか?正当事由が認められるのは、以下のようなケースです。

  • 貸主や家族、従業員が使用する予定がある
  • 貸主が事業で使用する予定がある
  • 返済のために手放す必要がある
  • 建替えを予定している

それぞれのケースについて詳しく見ていきましょう。

貸主や家族、従業員が使用する予定がある

正当事由が認められるケースの1つ目は、貸主や家族、従業員が使用する予定があることです。賃貸経営を行うオーナーの中には、高齢や身体の不調、身内の世話などの理由で、オーナーが賃貸物件の自己使用を希望している場合は正当事由として認められます。

また、貸主の家族や貸主が経営している会社の従業員が賃貸物件の居住を希望している場合も同様です。

しかし、必ず正当事由が認められるわけではありません。必要性が低いと判断された場合は、正当事由よりも借主の物件を使用する権利が優先されるので注意が必要です。

正当事由あり 貸主が借主との賃貸契約を締結してから10数年後、転勤から戻ってアパート暮らしをしていたケース。借家の借主には転勤する経済能力があり、借主の転居に伴う仲介料や敷金、引っ越し費用などの立退き料(200万円)を支払うことで正当事由があるとみなされた。
正当事由なし 貸主は身体障害者の子の居宅を建築するために、立退き料300万円を提示して立退きを求めたケース。借主は借地を多数の家族の居住場所として使用していたため、正当事由が認められなかった。

貸主が事業で使用する予定がある

貸主が事業で対象建物のある土地を使用する予定がある場合にも、正当事由が認められます。例えば、貸主が医院の開業を予定しており、対象建物のあるエリアが最も需要が期待できて、それ以外の地域では需要が期待できないというケースです。

上記のように、貸主が事業でその土地を使用する必要性が高いと判断された場合は、正当事由が認められて居住者の立退き、賃貸住宅の取り壊しを行えるようになります。

しかし、このケースでも必ず正当事由が認められるわけではありません。入居者が賃貸住宅を使用する権利よりも貸主の必要性が低いと判断された場合は、貸主や家族、従業員が使用する予定があるケースと同様、正当事由が認められない可能性もあるので注意しましょう。

正当事由あり 貸主が本社の社屋を建築するために借地の立退きを求めたケース。しかし、借主は借地で20年以上パチンコ店を経営しており、立退けば事実上の廃業。裁判所は借地権価格や借主の営業利益、権利金なしなどを総合的に考慮し、立退き料8億円を提供することで正当事由を認めた。
正当事由なし 貸主は借地の隣接地に居住しており、借地に養子を居住させて老後の面倒を見させるためとして立退きを求めたケース。立退き料2,504万円の提供を申し出たものの、借主が借地を倉庫、資材置き場として使用すると異議を唱え、正当事由が認められなかった。

返済のために手放す必要がある

不動産ローンの返済が困難になって、返済を行うために賃貸物件を売却して現金化する場合も正当事由が認められます

相続で賃貸物件を取得した場合には購入資金が不要ですが、自身が賃貸経営を始める場合には賃貸物件の金額は高いので多額の購入資金が必要です。そのため、ほとんどの人は購入資金を金融機関の不動産ローンで補います。

空室で想定通りの収入が得られなかった場合、キャッシュフローが悪化して返済が滞るため、返済を行うために売却して現金化することになります。

購入相手が不動産投資家の場合には、立退き交渉を行わずに済みますが、建物を解体して別の事業を開始する場合は立退き交渉が必要です。

このようなケースでも正当事由が認められますが、不動産投資家への売却も可能な場合には、必要性が低いと判断されて正当事由が認められない可能性もあるので覚えておきましょう

正当事由あり 借地権付き建物の貸主が借入金の返済、他の相続人への価格弁済債務、借地更新料の未払債務などに充てるため、自宅と隣接する物件を売却するために立退きを求めたケース。借主に立退き料170万円を支払うことで、正当事由が認められた。

建替えを予定している

正当事由として認められるケースの4つ目は、建替えを予定していることです。賃貸物件には、法定耐用年数が定められています。

法定耐用年数に達しても、すぐに建物が壊れるというわけではありませんが、法定耐用年数を迎えた老朽化した物件は耐震性が低くなります。

室内や外観、設備の経年劣化はリフォームやリノベーションで補えますが、柱や屋根といった躯体部分は補えないので建替えが必要です。

耐震性の低い物件に住み続けることは入居者にとってもマイナスなので、入居者の権利よりも建替えの必要性が重視される可能性が高いと言えるでしょう。

正当事由あり 建物の老朽化が進行しており、耐震性の面でも危険があると借主に立退きを求めたケース。補強には高額の費用が必要であるものの、借家の立地場所が銀座で土地の高度利用や有効活用が求められることから、8億円の立退き料を提示することで正当事由が認められた。
正当事由なし 貸主は老朽化を理由に、今の家賃の4年分以上に相当する立退き料を提示して立退きを求めたケース。老朽化の責任が貸主にある、築30年以上の借家でも今後数年の使用に耐えられるなどの理由で正当事由が認められなかった。

入居者に立退きを請求する手順

部屋明け渡し

入居者への立退き請求は立退きの成立までに時間がかかるケースがほとんどです。そのため、スムーズに立退きを成立させるために、事前にどんな手順で入居者に立退きを請求するのかを把握しておくことが重要です。入居者に立退きを請求する際の手順は以下の通りです。

  1. 解約の申入れを行う
  2. 入居者と話し合う
  3. 転居先を手配する
  4. 部屋の明渡し

それぞれの手順について詳しく見ていきましょう。

①解約の申入れを行う

賃貸人は、初めに解約の申入れを行います。賃貸人は賃借人と賃貸借契約を締結しますが、賃貸契約書には「契約期間2年」といったように期間が定められています。

このように期間の定められている賃貸借契約を途中で解約するには、借地借家法という法律に基づき、「契約期間満了の1年前~6カ月前まで(解約通知期間)」に賃借人に更新しない旨の申入れをしなくてはなりません

通知(解約の申入れ)は口頭でも可能ですが、後でトラブルに発展する可能性もあるため、トラブルを未然に防ぐためにも、内容証明郵便といった書面で行いましょう

②入居者と話し合う

解約の申入れを行った後は入居者と話し合います。解約の申入れを行った時点で入居者の立退きが成立するというわけではありません。

借主の立退きが成立するためには、入居者の同意を得られるように話し合う必要があります。

話し合う際は、賃借人の立場に立つことが重要です。退去した場合は、勤務先から遠くなる、子供が通う学校の校区が変わる、新居を確保する手間や家賃・敷金・礼金・保証金・引っ越し費用などの費用負担が生じるといったデメリットを伴います。

そのため、話し合いを行う場合は、これらのデメリットを踏まえた上で、新居の確保に必要な初期費用(家賃・敷金・礼金・保証金・引っ越し費用など)を補填するための立退料の提示や退去の時期の調整などを行います

③転居先を手配する

転居先は借主が探すケースが多いですが、話し合いを有利に進めるために、貸主があらかじめ転居先を手配しておくケースもあります。

転居先を手配する場合は、話し合いでの同意を得やすくするために、貸主側ではなく借主側の立場に立ちながら賃借人の要望を満たす物件をしっかり選ぶことが重要です。

どのような物件を提案すれば良いのか分からない場合は、不動産の専門家である不動産会社に相談しましょう

④部屋の明渡し

解約の申入れに対する同意を入居者から得ることができれば部屋の明渡しです。部屋の明渡しの時期は、入居者の状況を考慮しながら柔軟に対応します

しかし、話し合いがうまくまとまらなかった場合は、部屋の明渡しに至ることができません。そうなると、他の手段で立退きを求めることになりますが、無駄な時間や費用がかかるため、管理を委託している不動産会社に相談しながらうまく話し合いを進めましょう

立退き拒否の場合の対応方法

オーナーが解約の申入れを行ったにもかかわらず、入居者が立退き拒否をした場合、オーナーに打つ手がないというわけではありません。以下のいずれかの方法によって、引き続き立退きを求めていくことになります。

  • 弁護士に相談する
  • 裁判所に明渡しを請求する

それぞれの対応方法について詳しく見ていきましょう。

弁護士に相談する

立退きを拒否した入居者への対応方法として、まず弁護士に相談するという方法があります。法律の専門家である弁護士に相談した場合は、法律の観点からどのような対応方法があるのかアドバイスを受けることが可能です。

また、弁護士が直接入居者と話し合ってくれるため、オーナーが話し合うよりも話がまとまる可能性が高まります。

しかし、弁護士に相談する際は、基本的に法律事務所を訪れなくてはならない、弁護士報酬を支払わなくてはならないという点に注意が必要です。電話相談を受け付けている、または初回の法律相談が無料の法律事務所もあるため、そのような法律事務所をうまく活用しましょう

裁判所に明渡しを請求する

弁護士に相談しても話し合いがうまくまとまらない場合は、裁判所に明渡しを請求することになります。

裁判所に明渡しを請求すれば、すぐ判決が出て入居者に立退きを求められると思っている人も多いかもしれませんが、そのようなことはありません。

裁判所に明渡しを請求してから6カ月程度の期間を要することが多く、弁護士に依頼する費用などもかかります

裁判所に明渡し請求をする場合は上記のように時間と費用がかかるため、なるべく話し合いで立退きを成立できるように、日頃から入居者と良好な関係を築いておくことも重要です。

まとめ

不動産投資を行うオーナーの中には、自身の居住用として賃貸物件を使用したい、契約違反の入居者を退去させたいなどの理由で、入居者の立退きを希望している人も多いと思います。

オーナーは入居者に対して立退きの要求をすることは可能ですが、オーナーの要求に正当事由が認められなかった場合は、入居者の借りる権利が優先されるという点に注意が必要です。

立退きを要求して入居者の同意を得ることができれば、正当事由は必要ありません。しかし、入居者の同意を得ることは厳しく、交渉が長引く、または立退料を多く支払わなくてはならないケースがほとんどです。

立退料に関する判例では、新居の契約条件や入居者が立退きに応じた場合に被る損害といった情報に基づいて、家賃の数年分の支払いを要求したケースもあります。

入居者に立退きを求める際は手間や費用がかかるため、少しでも交渉を有利に進めるためにも入居者と良好な関係を築いておきましょう