
アパート経営やマンション経営といった賃貸経営を行うオーナーの中には、家賃滞納中の入居者が急に夜逃げして、滞納家賃を回収できずに困っているオーナーも多いのではないでしょうか?
家賃滞納者が急に夜逃げした時の対応を誤った場合、滞納家賃を回収できないだけでなく、オーナーが訴えられる可能性もあるので注意が必要です。
この記事では、家賃滞納中の入居者が夜逃げした場合の対応策と注意点を徹底解説します。
家賃滞納中の入居者が夜逃げした場合の家賃回収方法
賃貸アパートや賃貸マンションなどを購入して、高い入居率を維持できていれば安定した家賃収入が得られると考えている人も多いのではないでしょうか?
しかし、いくら高い入居率を維持できていたとしても、入居者が家賃を滞納している場合は空室が生じているのと同様に安定した家賃収入が得られないので注意が必要です。
「第23回賃貸住宅市場景況感調査 日管協短観(公益財団法人日本賃貸住宅管理協会日管協総合研究所が2020年6月に公表)」の2019年下期の地域滞納率は以下の通りです。
月初全体の滞納率 | 月末での1カ月滞納率 | 月末での2カ月以上滞納率 | |
首都圏 | 5.2% | 1.7% | 0.9% |
関西圏 | 8.7% | 2.3% | 1.2% |
その他 | 6.0% | 2.3% | 1.2% |
全国 | 6.1% | 2.1% | 1.1% |
振込期限までに家賃を支払わない入居者は5~8%程度となっています。一方、月末までの1カ月滞納率もしくは2カ月以上滞納率は低くなっており、長期滞納が減少したと考えるオーナーも多いのではないでしょうか?
長期滞納が減少している背景には、家賃保証会社の利用によってオーナーが保証会社から代位弁済を受けていることが挙げられます。
依然として長期滞納は高い割合で発生しており、家賃保証会社を利用していない場合には夜逃げによって家賃を回収できなくなる可能性もあるので注意が必要です。家賃滞納中の入居者が夜逃げした場合の家賃の回収方法として、以下の4つが挙げられます。
- 入居者に連絡する
- 入居者の勤務先に連絡する
- 連帯保証人に連絡する
- 家賃保証会社に連絡する
それぞれの回収方法について詳しく見ていきましょう。
①入居者に連絡する
振込期限までに家賃を振り込んでいない、家賃徴収のために部屋を訪れても入居者がいる気配が感じられないからと言って、必ず夜逃げしているとは限りません。そのため、まずは入居者に連絡して真相を確認することが重要です。
もしかすると、事故や事件に巻き込まれている、何らかの理由によって急に帰省している、病気で入院している可能性が考えられるためです。
時間をずらす、数日にわたって連絡をしても応答がない場合は夜逃げの可能性が高いため、次の方法に移行します。
②入居者の勤務先に連絡する
入居者と直接連絡がつかない場合は、賃貸借契約書に記載されている勤務先に「○○さんはいらっしゃいますか?」と連絡します。
本人と直接話ができた場合は「通知を出しているので確認してください」、不在の場合には「○○から電話があった旨を伝えてください」と伝えます。
直接本人と話す際に家賃滞納について問い詰めた場合は脅迫と捉えられる、他の従業員に家賃滞納の旨を伝えると名誉毀損、個人情報保護の観点から訴えられる可能性があるので注意が必要です。
不在で折り返しの連絡を要求しているにもかかわらず、2~3日経っても連絡がない、既に退職していたまたは最初から在籍していなかった場合は他の方法を検討します。
③連帯保証人に連絡する
家賃の回収が困難であると判断した場合、本人からの回収は諦めて連帯保証人に連絡します。
連帯保証人に連絡する際は、入居者が家賃を滞納していて、連絡がつかない旨を伝えます。連帯保証人の中には、「滞納家賃を先に本人に請求してください」「本人に返済資源がないか確認してください」といった理由をつけて家賃の支払いに応じない人も。
しかし、連帯保証人は入居者本人と同様の責任を負うことから、上記のような要求に応じる必要はありません。
それでも「名前だけを貸していた」「本人とは縁を切った」などの理由をつけて滞納家賃の支払いを拒否する連帯保証人もいます。
そのようなケースでは、連帯保証人をつけずに家賃保証会社と契約している時は次の方法、契約していない時は裁判所への訴訟手続きに移行します。
④家賃保証会社に連絡する
連帯保証人をつけておらず家賃保証会社と契約している場合は、家賃保証会社に連絡して滞納家賃を代わりに支払ってもらいます。
家賃保証会社とは、入居者や連帯保証人が家賃を支払わなかった場合、代わりに滞納家賃を支払ってくれる会社です。家賃保証会社は家賃滞納の専門家で、滞納家賃を立て替えた後は立替家賃の徴収や建物の明渡訴訟などを入居者に対して行います。
連帯保証人をつけたからと言って、確実に滞納家賃を回収できるとは限りません。そのため、確実に滞納家賃を回収するために、連帯保証人をつけるとともに家賃保証会社と契約するケースも増えています。
家賃滞納中の入居者が夜逃げして滞納家賃を回収できず困った場合でも、家賃保証会社と契約していれば、確実に滞納家賃を回収できるでしょう。
家賃の時効は原則5年なので早期対応が必須
家賃滞納中の入居者が夜逃げしても、最終的に家賃保証会社に連絡するまたは法的手段に移行すれば滞納家賃を回収できるため、あまり焦っていないオーナーもいるのではないでしょうか?
しかし、家賃は5年という時効があり、5年が経過すると支払い義務が消滅して滞納家賃を回収できなくなります。
オーナーが訴訟を起こした場合には時効が5年から10年に延長、家賃滞納者が家賃滞納を認めたまたは仮差押えや差押えが成立した場合には時効が中断します。
何もせずに放置した場合、時効が成立して滞納家賃を回収できなくなるため、家賃滞納には早期対応が必須と言えるでしょう。
オーナーが入居者に直接制裁を加えるのは禁止
家賃滞納中に夜逃げした入居者に対し、裁判所への訴訟手続きを経ずに制裁を加えたいと考えているオーナーも多いのではないでしょうか?
家賃を滞納して夜逃げした入居者に弁解の余地はないため、オーナーが自力で家賃滞納や夜逃げの状況を解決に導くために行動することは許されそうですが、法律では自力救済が禁止されています。
自力救済とは、裁判所への訴訟手続きを経ずに直接制裁を入居者に加える行為を指します。自力救済を行った場合は、入居者に非があってもオーナーが訴えられる可能性があるので注意が必要です。自力救済に該当するケースとして、以下の2つが挙げられます。
- 鍵を勝手に変更する
- 家具や私物などを勝手に処分する
それぞれのケースを詳しく見ていきましょう。
鍵を勝手に換えることはできない
部屋に荷物が残っている場合は、夜逃げした入居者が荷物を取りに戻る可能性があるので部屋に入れないようにしたい、次の入居者を募集するために鍵を変更したいと考えているオーナーも多いのではないでしょうか?
しかし、この行為は裁判所への手続きを経て解決すべき問題なので、勝手に行動した場合は自力救済に該当するという点に注意が必要です。
入居者に訴えられた場合、入居者に家賃滞納や夜逃げという非があってもオーナーが罪に問われる可能性があるため、鍵を勝手に換える行為は絶対にしてはいけません。
部屋に残された荷物を勝手に処分できない
家賃滞納中の入居者が夜逃げした場合、部屋を放置していても家賃収入が得られないため、家具や私物などを処分して、次の入居者に部屋を貸し出したいと考えるオーナーも多いと思います。
しかし、夜逃げした入居者と連絡がつかないという理由で勝手に部屋の家具や私物などを処分する行為も本来は裁判所への手続きを経て解決すべき問題で、勝手に行動した場合は自力救済に該当します。
裁判所への手続きを経て許可が得られた場合、鍵を勝手に変えるまたは家具や私物などを処分することが可能です。
鍵を勝手に変更するのと同様、入居者に家賃滞納や夜逃げという非がある場合でも、家具や私物などを裁判所の許可なく処分した場合、損害賠償請求、不法侵入で訴えられる可能性も。
トラブルを未然に防ぐためにも、部屋に残った家具や私物などを勝手に処分しないようにしましょう。
入居者の許可を得て処分する際も書類を残す
家賃滞納中で夜逃げした入居者と連絡がとれて、本人から家具や私物などの処分の許可が得られた場合は家具や私物などを処分することが可能です。
家具や私物などを処分する許可は口頭でも可能ですが、「言った・言わない」でトラブルに発展する可能性があるので注意が必要です。
トラブルに発展した場合、損害賠償を請求される可能性があるため、口約束ではなく書類に残しておいた方が良いと言えるでしょう。
連帯保証人が死亡している場合の対応策と注意点
家賃滞納中の入居者が夜逃げした場合でも、連帯保証人がついている場合は、連帯保証人に請求することで滞納家賃を回収することが可能です。しかし、連帯保証人に請求したところ、死亡している場合はどうすればいいのでしょうか?
連帯保証人が死亡していた場合の対応策として、以下の3つが挙げられます。
- 連帯保証人の相続人に請求する
- 家賃保証会社に連絡する
- 法的手段をとる
それぞれの対応策と注意点について詳しく見ていきましょう。
連帯保証人の相続人に請求する
連帯保証人が死亡していた場合、入居者と連帯保証人との関係が終了するので「滞納家賃を回収できなくなるのでは?」と不安に感じているオーナーもいると思います。
しかし、入居者と連帯保証人との間で締結した連帯保証契約は相続人に引き継がれるため、連帯保証人の相続人に滞納家賃を請求することが可能です。
連帯保証人の相続人に請求できると言っても、連帯保証人に相続人がいない場合や相続を放棄した場合などには相続人に滞納家賃を請求できないので注意しましょう。
家賃保証会社に連絡する
連帯保証人が死亡していても、家賃保証会社と契約していれば家賃保証会社に滞納家賃を請求することが可能です。
しかし、家賃保証会社と契約しているからと言って滞納家賃を請求できるとは限りません。家賃保証会社と契約する際は、以下の2つの点に注意が必要です。
- 例外が設けられている会社がある
- 家賃保証会社が破綻する可能性がある
それぞれの注意点を詳しく見ていきましょう。
例外が設けられている会社があるので注意
全国的な家賃滞納率は6%程度とあまり高くありませんが、家賃保証会社に支払う契約金が賃料の50~100%となっていることを考えると、家賃滞納が発生した場合の家賃保証会社のリスクは高いと言えます。
そのため、家賃保証会社の中には、家賃保証の例外を設けてリスクを調整しているところも。例えば、自殺や病気、事故などが原因で生じた家賃滞納の場合は家賃を保証しないもしくは一部のみ保証するなどです。
その理由は、上記に該当する家賃滞納の場合には、入居者に代わってオーナーに滞納家賃を支払っても回収できる可能性が低いためです。
家賃滞納中の入居者が夜逃げした場合も、立て替えた後に回収できる可能性が低いという理由から家賃保証の例外としている家賃保証会社もいます。そのような家賃保証会社では滞納家賃を回収できないため、事前に保証範囲を確認しておきましょう。
家賃保証会社が破綻した場合は保証を受けられない
「夜逃げによる家賃滞納が保証範囲に含まれている家賃保証会社と契約を締結しておけば安心」と思っているオーナーもいるかもしれませんが、そうとは言い切れません。
いくら夜逃げが保証範囲に含まれていても、家賃保証会社が経営悪化で破綻した場合には滞納家賃の保証を受けられません。
そのため、家賃保証会社を選ぶ際は、万が一破綻しても何らかのサポートを受けられるか、事業実績が豊富で経営が安定している家賃保証会社かどうかを確認しておくことが重要と言えるでしょう。
法的手段をとる
家賃保証会社と契約しておらず、入居者または連帯保証人から滞納家賃を回収することが困難な場合は法的手段に移行します。
法的手段では、賃貸契約の解除を前提とする明け渡しと家具や私物などの処分、滞納家賃の支払いを裁判所に訴えますが、夜逃げしてどこにいるのか特定できない場合には、手続きを進めることが容易ではありません。
夜逃げのような特殊なケースでは、住所不明の相手を対象とした公示送達という手続きを行います。
公示送達の手続きでは、ガスや電気、水道を一定期間使っていないといった夜逃げの証拠を提示しなければなりません。
夜逃げの発生から解決までは数カ月程度かかります。法的手段は手間と時間がかかるため、法律の専門家である弁護士に相談しながら手続きを進めていきましょう。
入居者審査を疎かにしない
入居者が家賃滞納から夜逃げに至った場合は、後の対応に手間と時間がかかります。また、法的手段に切り替えるにあたって弁護士に依頼する場合は報酬も発生するため、夜逃げを未然に防いだ方が効率的と言えます。
夜逃げを未然に防ぐには、賃貸契約を締結する際の入居者審査を疎かにせず、時間をかけて丁寧に行うことが重要です。
入居者審査を行う際のポイントとして、以下の2つが挙げられます。
- 家賃の支払い能力があるかどうか
- ルールを守れる人物かどうか
それぞれのポイントについて詳しく見ていきましょう。
家賃の支払い能力があるかどうか
入居者審査では、家賃の支払い能力があるかどうかを確認します。家賃の支払い能力の有無を判断するポイントは以下の4つです。
- 職業の適性
- 年収
- 連帯保証人の有無
- 連帯保証人の支払い能力の有無
入居者が非正規雇用の場合は、安定した収入を得られる可能性が正社員と比べて低いため、夜逃げのリスクが高いと言えます。そのため、正社員かどうか、公務員や医者などのように属性が高いかどうかを確認します。
年収は高いほど良いと言えますが、家賃を支払うのに十分な年収があれば問題ありません。年収に占める家賃の割合は25%以内が1つの基準と言われていることから、その範囲内に家賃が収まっているか確認しておきましょう。
連帯保証人がいれば、夜逃げが生じた場合でも滞納家賃を回収できる可能性が高まります。しかし、連帯保証人の情報が嘘である、連帯保証人の支払い能力が低い可能性があるため、連帯保証人が実在するのか、支払い能力があるのか確認を怠らないようにしましょう。
ルールを守れる人物かどうか
ルールを守れない人物だった場合、平気で家賃を滞納する、騒音や異臭といったトラブルを起こす可能性が高いため、ルールを守れる人物かどうかを確認することも重要です。
例えば、内覧時の態度や言葉遣い、服装などからおおよその人柄を判断できます。しかし、オーナーは直接入居希望者と関わらないため、内覧に立ち会った管理会社から情報収集を行うことになります。
「直接入居希望者と接して人柄を判断したい」場合は、内覧に管理会社と一緒に立ち会えばじっくり人柄を判断できるでしょう。
まとめ
家賃滞納中の入居者が夜逃げしても、連帯保証人や家賃保証会社に請求すれば、滞納家賃を回収することが可能です。
しかし、家賃には5年という時効が適用されるため、速やかに対応しなければ時効によって滞納家賃を回収できなくなるので注意が必要です。
また、家賃滞納中の入居者が夜逃げした場合、自力で解決へと導きたいと考えるオーナーも多いかもしれませんが、法律で自力救済は禁止されています。
勝手に鍵を換える、家具や私物などの処分を行った場合は、相手に非があってもオーナーが訴えられる可能性も。
家賃保証会社と契約していれば、夜逃げをされた場合のリスクを抑えられますが、リスクが全くなくなるというわけではありません。保証の例外や破綻によって保証を受けられない可能性もあるので要注意です。
夜逃げ対応には手間と時間、費用がかかるため、夜逃げを未然に防ぐためにも入居者審査を怠らないようにしましょう。