家賃滞納者を追い出すべきかどうかの判断基準と未納家賃を回収する方法

投稿日2020/10/12
更新日2020/11/05
家賃滞納者

家賃滞納者がいると「収益」「時間」「労力」の損失に繋がります。できるだけスムーズに家賃を回収し、今後同じようなことが起こる前に悪質な入居者には出て行ってほしいものです。

しかし、入居者を追い出すとは言え「大きなトラブルになるのは避けたい」「損失分をちゃんと回収したい」など、追い出し方法や未納分の回収手段にお困りのオーナーもいるでしょう。

そこで本記事では、家賃滞納者を追い出すべきかどうかの判断基準と未納家賃を回収する方法について解説いたします。

家賃滞納者を追い出すべきかどうかの判断基準と期間

家賃を滞納する入居者の理由は様々です。しかし、たんなる物忘れならまだしも、家賃を支払う気がない入居者には困り果ててしまいますよね。

損失を出す原因になっている入居者には、なるべく早く賃貸物件から出て行ってほしいもの。しかし、家賃を滞納する入居者の中には、改善の余地がある人もいます。まずは、家賃滞納者を追い出すべきか否かを正しく判断していきましょう

対応次第で滞納問題の改善の余地があるケース

改善の余地があるとは、注意すれば家賃滞納の心配が徐々に薄まっていくケースです。

  • 「振り込み日を勘違いしていた」
  • 「残高が不足していた」
  • 「振り込み日に間に合わなかった」

このように、支払う気はあるけれど、何らかの事情で振込に間に合わなかったという場合は、今後家賃滞納を防ぐ可能性があると判断できます。もし家賃の支払い日に振込が困難であるときは、振込日を数日ずらせば解決できます。

しかし、「うっかりミス」が何度も続くようであれば、改善の余地がないケースと判断すべきと言えます。

改善の余地がなく追い出しを検討すべきケース

改善の余地がないとは、今後、追い出すことを検討した方がいいケースのことです。

  • 払い忘れが頻繁に発生している
  • 家賃滞納が長期化している
  • 連絡がつかない

うっかりミスも何度も続けば、うっかりではなく「わざと」行われているとしか思えません。また、1年以上も家賃の滞納が続いていたり、もはや入居者が行方不明となり連絡が取れなくなっていたりする場合は、改善の余地がないと判断すべきでしょう。

家賃滞納者から家賃を回収する2つの方法

督促状

いくら入居者に事情があるとはいえ、賃貸経営は慈善事業ではありません。経営を続けるためには、滞納された家賃はしっかりと回収しなければ大きな損失となってしまいます。

とは言え、滞納分の家賃は全額回収できるのかどうかも大家としては気になるところ。未納分の家賃を予定通り回収するためには、一体どうしたらいいのでしょうか。

滞納された家賃を回収するためには、以下の2つの方法があります。

方法1.保証会社に回収を任せる

保証会社は、入居者の連帯保証人代わりとして存在しています。現在、保証会社と契約しているのであれば、債権回収は保証会社に任せておけば大丈夫です。

滞納分の家賃は、これまで通り保証会社からオーナーの口座に振り込まれるため、特に何かの手続きを行う必要はありません。未納分の賃料は、保証会社から入居者へ督促をかけて回収する仕組みになっています。

また、管理会社に委託管理をしている場合は、管理会社に督促業務を依頼することも可能です。管理会社は、未納分の家賃の督促や連帯保証人へ家賃の請求を行ってくれます。

方法2.連帯保証人へ督促状を送る

もし保証会社と契約していなかったり、自主管理をしていたりする場合は、本人と連帯保証人へ督促状を送る必要があります。

督促状には「支払い額」「支払い期限」「振込先」「ペナルティ内容」を明記しましょう。督促状は内容証明郵便という「郵送の記録を証明してくれる郵便」形式で送るのがおすすめです。内容証明郵便は、相手に郵便物が届いたという証明になりますので、ぜひ活用してください。

ちなみに、記載するペナルティ内容とは、支払い期日がすぎた場合は法的措置を取るという内容がベターです。「期日までに支払わないとカギを付け替えて荷物を外に出します」と記載してしまうと、違法行為に該当してしまうこともありますので、注意してください。

明渡し請求で家賃滞納者を追い出すのは違法なのか

アパートや賃貸マンションを運営するオーナーにとって、家賃は唯一の収入源でもあります。家賃を支払わない人を追い出し、路頭に迷わせてしまうのは、果たして違法なのでしょうか。

実は、国が定める借地借家法という不動産の法律では、オーナーである貸主よりも借主の立場を守るように作られています。そのため、いくら家賃滞納者であっても、追い出しをかけることで、オーナー自身が訴えられてしまう恐れもあるのです。

では、悪質な家賃滞納者を目の前にして、オーナーはなすすべがないのでしょうか。

無理な追い出しは違法行為となることも

いくら建物の所有権がオーナーにあるとは言え、賃貸借契約を交わしている以上、室内は入居者の居住空間です。プライベート空間に土足で踏み込むことは、許されません

以下のような行為は、違法とみなされ損害賠償請求される可能性もあるので、十分に注意しましょう。

  • 物件のカギをこじ開け不法に立ち入る
  • 入居者の家具を勝手に処分する
  • カギを付け替える
  • 家賃を払うまでカギを取り上げる
  • ドアに脅迫文を貼る
  • 入居者に対して暴言を吐く
  • 大声で「金を払え」と督促する
  • 早朝や深夜など寝ている時間帯に訪問する

上記のような追い出し行為は、違法行為とみなされ過去に裁判沙汰になったケースもあります。日本の法律では、自力救済という実力行使が禁止されています。たとえ相手に非があったとしても、トラブルを解決するためには司法書士や弁護士などの法律の専門家に頼ることが求められます。

家賃滞納者を追い出すためには裁判が必要

できるのであれば、話し合いをして家賃滞納問題を解決できればいいのですが、多くの場合、話し合いで「はい、明日から家賃を支払います」とはならないのが現状です。

家賃を払わない入居者を追い出すためには「強制退去」という裁判所の力を借りるほかありません。強制退去させるためには、裁判所へ行き「明渡し請求」というものを行う必要があります。

つまり、証拠を集めて法律に頼り、裁判所の力で追い出すしかないのです。

家賃滞納者を追い出す明渡し請求の条件と手順

明け渡し訴訟

家賃滞納者を強制退去させるためには、賃貸人であるオーナーが明渡し訴訟を行う必要があります。明け渡し訴訟で勝訴すれば、堂々と悪質な賃借人を追い出すことができます。

しかしながら、訴訟を起こせば必ず強制退去できる訳ではないのです。

明渡し請求を行うためには「条件」を満たし、正しい「手順」で進めなければいけません。ここからは、家賃滞納者を追い出す明渡し請求の条件と手順について解説していきます。

強制退去させるために必要な2つの条件

強制退去は、法律に則り部屋から強制的に追い出すことですから、それなりの理由と証拠が必要です。そのため裁判所に「この入居者は改善の余地がない」と思わせる判断材料が必要になります。

この判断材料となるのが、以下の条件です。

  • 家賃を3カ月以上滞納していること
  • 大家側が督促をかけていること

大家側が督促をかけているにもかかわらず、3カ月以上という長期に渡って家賃を滞納していれば「支払う気がない」と判断できます。これを「信頼関係が破壊された状態」と呼びます。民法では、当事者同士で信頼関係が壊れてしまった場合、賃貸契約の解除が有効となります。この状態になってはじめて、借主を追い出せる状況が整うのです。

強制退去の手順

状況が整ったら「明渡し訴訟」の準備にはいります。ここで注意したいのが「明渡し訴訟=強制退去」ではないということです。明渡し訴訟では、各段階で借主に滞納家賃の支払いを求めるチャンスが与えられます。借主がそれを最後まで拒否し続ければ、最終手段として強制退去が行われるという仕組みです。

家賃滞納から強制退去までの流れと日数を、以下の表にまとめました

手 順 時 間
契約解除予告通知と督促 家賃滞納の翌日~3カ月以上
明渡し請求訴訟 4カ月目~6カ月
強制執行の申立て 6カ月目~
強制執行の断行日 強制執行申立ての日~1カ月以内

この表をみてわかるように、強制退去させるまでには、長い時間がかかります。この間、正しい手順を踏んでいかなければ、さらに時間がかかってしまうことも。スムーズに手続きを終えられるよう、大まかな流れを把握しておきましょう。

契約解除予告通知

家賃の滞納が発生したら、入居者に賃料の支払いを求めるとともに、滞納が解消されない場合の措置として「契約解除もやむえない」という内容を記載した内容証明郵便を送付します

内容証明郵便は「督促をかけた」「解約を求める意思表示をした」という証拠になりますので、必ず郵送しておきましょう。ここで話し合いが成立し、問題解決となればいいのですが、それでも滞納が続くようであれば、契約解除を行います。通常は、これで借主を退去させることが可能です。

しかし、契約解除を行っても入居者が出ていかないときには、次のステップとして強制退去させる訴訟を起こす段階に入ります。

明渡し請求訴訟

「契約解除になっても入居者が居座っている」かつ「滞納分の賃料を支払う姿勢もみせない」場合には、強制退去させるための明渡し請求訴訟を行いましょう。明渡し請求では、建物の明渡しとともに未納家賃の支払いを請求することが可能です。

明渡し請求では、前述したとおり証拠となる書類のほか、以下の書類が必要になります。

  • 賃貸住宅の不動産登記事項証明書
  • 賃貸住宅分の固定資産税評価額証明書
  • 収入印紙
  • 賃借人との建物賃貸借契約書
  • これまで送付した内容証明
  • 配達証明

裁判になると、賃貸人と賃借人が裁判所に出廷し、滞納金額や退去日について話し合われます。ここで、被告人である賃借人に明渡しを認めさせるためにも、滞納した証拠が必要となるのです。話し合いは1回で終わらず数回に及ぶこともあります。

ここで話し合いがまとまれば、和解調書が作成されます。和解できない場合でも、原告の主張が認められれば、未納分の賃料の支払いと退去が命じられます。

この期に及んでも、借主が判決に従わない場合には、最終手段として強制退去が執行されることになるのです。

強制執行の申立て

借主が判決を最後まで拒み続けた場合、いよいよ強制退去が行われます

明渡し訴訟後、定められた期日までに借主が出ていかないときは、改めて裁判所に強制執行を申立てなければいけません。貸主は、判決時に裁判所で作成された債務名義という書類と予納金を用意し、裁判所にて強制執行の手続きを行う必要があります。

強制執行の断行日

手続き終了後に、明渡しが断行されます。断行とは、借主を追い出すために、強制的に荷物を運び出すこと。強制執行は貸主であるオーナーではなく、裁判所の執行官が強制退去を行います。

運び出された荷物は、一時的に保管され、借主に返却するか法律により強制処分するかのいずれかになります。強制退去が執行されたとはいえ、荷物の持ち主は債務者、つまり借主です。荷物を勝手に処分すると違法となりますので、注意しましょう。

明渡し請求執行費用の負担者と金額

ここまで、家賃滞納者を追い出す明渡し請求の手順についてご説明してきました。これらの手続きの途中で、いくつか費用のお話が出てきましたが、この費用の負担者は一体誰なのか、まずは費用一覧を再確認してみましょう

金額
予納金 65,000円
執行官手数料 30,000円
立会人報酬 100,000円以上
荷物運び出し・保管請負代金 100,000円以上

上記の表の金額は、あくまで一例です。ほかにも、鍵の付け替え料や弁護士費用などもオーナーの負担となります。多くの人を頼れば、それだけ支出が増えてしまうでしょう。

実は、これらの費用の負担者は賃貸人であるオーナーです。もちろん、被告側である賃借人に請求することも可能ですが、回収できるまでオーナーが立替えなければいけません。

確かに強制退去は法的な効力が絶大で、家賃滞納者を追い出せる方法ではありますが、執行までにお金も時間もかかることがお分かりいただけたと思います。

強制退去は、借主のみならず貸主にも大きな負担がかかる行為。できるものであれば、強制退去に至らず家賃を回収できるよう、常日頃から対策を講じておく方が無難と言えます。

家賃滞納リスクを防ぐためにやっておきたい3つのポイント

保証会社

家賃滞納リスクは、事前の対策が不可欠。コロナ不況に陥る現代では、これから入居する契約者、もしくは今いる入居者もいつ家賃を滞納するかわかりません。

今後、滞りなく家賃収入が入ってくるよう備えておきましょう

ポイント1.入居審査の強化

まず一つ目が、滞納しそうな人を入居させないという方法。入居希望者が現れたら、契約書に記載された内容と経済能力を厳しくチェックし、不安に思う点があれば入居をお断りしましょう。チェックすべきポイントは、以下の通りです。

  • 契約書の内容に偽りはないか契約者に細かくヒアリング
  • 転職回数が多くはないか
  • 勤務先は信用が高い企業か
  • 平均よりも年収が低くないか

まずは、契約書に書かれた内容に虚偽はないか、入居希望者にヒアリングを行いましょう。特に聞いておきたいのが、これまでの転職履歴と勤務先の名称です。転職回数が多く収入が不安定な場合は、家賃滞納リスクも高まることになります。

また、風俗店勤務や暴力団関係者であった場合も、何らかの理由で連絡がつかなくなる可能性があるかもしれません。できるだけ安定した家賃を得られるよう、リスクの芽は摘んでおきましょう。

ポイント2.支払い能力のある連帯保証人をつけてもらう

契約者に支払い能力がなくても、経済力のある連帯保証人がいれば安心です。連帯保証人とは、契約者が支払いを拒んだ場合に契約者に代わって返済することを約束した人のこと。家賃滞納が発生した場合、連帯保証人に未納分の家賃の支払いを請求することができます。

つまり、連帯保証人に経済力があれば、契約者の収入が低くても、家賃を肩代わりしてもらえるということです。

ただし、2020年4月以降に改定された民法では、予め連帯保証人の責任と範囲を決めておくことが求められるようになりました。つまり、契約時点で連帯保証人が支払う金額の「限度額」を契約書に明記しなければいけません。契約書に明記されていない場合には、連帯契約が無効となる可能性があるため、十分に注意しましょう。

ポイント3.保証会社をつける

保証会社は、保証人をつけられない契約者の連帯保証人となってくれる企業です。賃貸保証会社とも呼ばれています。このページの上部でも解説した通り、保証会社は家賃滞納が発生したとき、入居者に代わり家賃の立替と督促を行います。

最近は連帯保証人を付けず、保証会社と契約するケースが多くなりました。保証会社との契約料は、契約する会社にもよりますが「賃料の1カ月分」というケースが多い傾向にあります。ただし、保証の範囲によって金額が前後するため、保証料を削減したいときは保証範囲を限定することも可能です。

まとめ

家賃滞納者を追い出すためには、裁判所で強制退去の手続きを行う必要があります。オーナー自身が無理に追い出しをかけると違法行為となりますので、このページで紹介してきたことを参考に、法律に則った行動をするように注意してください。

家賃滞納が発生すると、収益が減ってしまうので大きな問題ではありますが、事前に対策を講じれば家賃滞納リスクを下げることができます。家賃滞納リスクを軽減させるために、入居審査の強化や保証会社を付けるのが有効です。管理会社や賃貸部門がある不動産会社では、こうした家賃滞納リスク対策の相談も受け付けています。

管理会社は、家賃滞納リスクに備えるため、契約書の内容見直しやオーナーの懐事情に合った保証会社の紹介など、オーナーの代わりに様々な交渉を代行してくれます。賃貸運営を確実なものにするため、管理会社という安心できるパートナーと共に経営することも検討してみてください